2006/06/23

どんな分野にも売り上げランキングというのがあって、なにかしらモノを作って販売している人間にとっては気になってしかたがない情報なわけですよ。とくに競合が多い場合は。書籍もその例に漏れないんだけど、レコード業界におけるオリコンのような存在がないから、信用できるランキングというものがない(ここで「信用できる」というのは、少なくともエンドユーザやマスコミや同僚や上司や同業他社といった他者に対するアピールに活用する場合を想定している)。その結果、みんな、主に次のようないろんな意味で偏りがあるランキング情報に頼っている。
  1. 社内で発行した本の販売冊数はだいたい分かるので、そのなかでのランキング
  2. 書店によってはランキング(もしくは実売情報)を公開しているところがあるので、そこから得られる(もしくは推測される)ランキング
  3. Amazon.co.jpのランキング。各書目のページに表示される数字や、特定のキーワードで検索したときに掲載される順番
どれも母集団が限定的すぎるのが偏りの原因だと思う。そして、その偏りを無視してランキングという数字を持ち出されるとき、イラってくる。
もうどうしょうもないのは、1番目のランキングで高水準にある書目を見て、それが日本中でベストセラーになっているかのごとく勘違いしている場合。バカだろ。まあ、そんなケースは出版社の中にいない限りお目にかかれないけど、中にいるとしばしばお目にかかる。
2番目のランキングは、もう少し現実を反映している。でも、書店っていうのは、読者として意識している以上に得意分野と不得意分野の売り上げ差があるものだと思う。だから、特定の書店から報告されるランキングだけ目にして「○○の本は売れている」と言い放つ人は苦手だ。
いちばんイラってくるのは、3番目のランキングだけをもってあーだこーだ言われるケースである。つーか、あの「Amazonランキング」って何さ。1時間ごとに更新されるようだけど、Amazonランキングが1000だったら、少なくともその時間帯には日本で1000番目に売れている本なのか? とまあ、そういう感想が(出版社にいる以上)当然だと思うんだけど、これがぜんぜん当然じゃない。瞬間値にすぎないAmazonランキングをやたらに気にしたり、なんか適当なキーワードで検索して一番先頭に表示されることに意味を見出そうとする。そのような場当たり的な検証からは、その書籍が市場で評価されているかどうか判断できませんから! まあ、百歩譲って、それで個人的な満足を得るだけならいい。でも、たとえば恣意的なキーワードで検索して先頭付近に表示されることに満足するゲームを続けてたりすると、そのうち気分が麻痺してきて、まるでそれが真の市場の評価であるかのような錯覚に陥るものなので、ちゅういしてください。

で、何年か前にもAmazonランキングが取りざたされる状況のあいまいさにむかついて、それなら多少なりとも実際のところを検証できるようにしてやれと息巻き、Amazonランキングの推移を長期にわたってグラフにする実験をした。Amazonの書籍ページからAmazonランキングの数字を一時間に一回引っ張ってきて、それをMRTGに流し込んでるだけだけど、何年も続けてると下図のような結果が得られて興味ぶかい。基本的には会社で動かしているものなので、例としてちょっとだけ公開。グラフは、下に行くほどランキングが高くなっていることを表す。

flat-year
rightup-year

上側のグラフは、ときどき急峻な山(ランキングの落ち込み)があるけど、全体としては地を這うような傾向にある(特に今年の2月以降)。これは、ランキングとしては高値安定なので、そこそこ定番として市場に受け入れられていると思ってよさそうである。ちなみにこの本は、なにをかくそう『プログラミングのための線形代数』です。
一方、下側のグラフ(書名は控えさせていただきます)は、たまに売れてランキングを戻す谷間があるけど、その間はほぼ右肩上がりの傾向にあって、だんだんランキングが下がっていることを示す。つまり、発売後しばらくは売れたかもしれないけど、定番にはならず市場から忘れられちゃって、今ではぽつぽつとだけ売れている本だと思っていい。

まあ、ようするに、バカは使えないけどデータは使いようっていう話でした。

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