2005/11/30

ひとに仕事をお願いするときに最も難しいことのひとつは、「ダメな成果物をダメと伝えること」である。いまさら感が漂う標語だけど、ちょっと熟慮すれば、一言で片付けられる話でもないことがわかる。だから、たとえば後輩に、「ひとに仕事をお願いするときは、ダメなものをダメって言わなきゃダメだよ」みたいなことだけを言って悦に入っていても、得られる結果は少ない。むしろ、混乱や間違った結果を生みかねないだろう。

まず、「ダメな成果物」の定義があいまい。仕事を頼んだ相手がこちらの依頼に従わなかった場合は、「要求に従っていない」ことをもって「ダメ」を定義できる。ところが現実には、こちらの要求を明白に示せない仕事を依頼することが多い。そもそも、要求を明白に指示できる仕事なら、ひとに頼まない。自分で(コンピュータや機械を使って)やるか、さもなければ、出来合いのモノやサービスを利用すれば用が足りる。それ以外の仕事は、すべて明白に要求を示せない仕事だ。暗殺みたいな仕事のことはよく知らない。でも、「Aさんをやってほしい」とだけ依頼されて、勢いでたまたま傍らにいたBさんもやってしまい、しかも依頼主としてはBさんは別に殺してほしくなかった(深刻に困るわけじゃないけど)……みたいな状況で、依頼主から「オマエの仕事は中途半端だな」といってダメ出しされることは、暗殺者としての職業倫理にはどう響くんだろう? 
この例は、そんなに特殊じゃない。依頼する仕事が、製品やパッケージのデザインとか、コンサルとかリサーチとかシステム設計とかだったら、これと同じような場面がありえる。依頼するドメインに精通していないからコストをかけて外部に依頼するんだけど、精通していないドメインの仕事について明白な要求ができるか? 本当は、依頼される側が、そのことを十分に承知しているべきなのかもしれない。

なんか話が散乱してきたけど、要するに、「ダメな成果物をダメと伝えること」という標語の複雑さの最初の困難は、本来は自分のドメインにない相手の仕事の何をもってダメとみなすかの見極めだといえる。

方法は三つある。一つ目の方法は、相手にダメ出しをする前に、自分が要求を明白に示さなかったことを後ろめたく思うこと。そして、表現できない不満を抱えたまま、相手の仕事を受け入れる。個人的な意見だけど、この方法には震度5以上で倒壊する恐れのあるマンションに入居する可能性があるため、おすすめできない。自分がダメという代わりに、いよいよまずくなってきてから周囲にダメ出しをしてもらう方法ともいえる。実は一番採用されている方法である。
二つ目の方法は、ダメ出しのためにダメ出しをすること。オレがダメだっていってるんだ文句あっか。ありませんので、以降のお付き合いはひかえさせていただきます。
三つ目は、僕にはこれしか思いつかないんだけど、相手に見合った対価を背負った上でダメということ。直接的に金銭を払うことも含むけど、それだけじゃなくて、「ダメ」が相手にとって意味あるようにすること。そうすれば、これはオレにとってダメなだけじゃなく、(オレにとってとは意味合いが違うかもしれないが)オマエにとってもダメであると納得させられるかもしれない。そのためには、相手が相手の仕事で果たしているのと少なくとも同程度の意義を、自分自身の仕事で持たなければならない。それが相手へのダメの説明につながる。ことが多い。相手のドメインにおける相手のスキルを自分が尊重し、自分のドメインにおける自分の立場やスキルを相手に尊重してもらい、相手の考えを尊重し、自分の考えを相手に尊重してもらうこと。「ダメな成果物をダメと伝える」には、実はこれだけの下地がなくてはいけなくて、その覚悟がなければ、黙って相手が一発でイイ仕事をしてくれることに期待するか、そもそも何もせず座っているしかない。

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