2017/08/21

LLイベント2017の「第2プログラミング言語鑑定団」で鹿野が話したことまとめ

プログラミング好きにもいろいろあって、仕事で使ってる道具をもっと知りたいという人もいれば、自分が使ったことない道具の話を知りたいという人もいれば、道具はなんでもいいから面白い話がしたいという人もいます。 久しぶりに参加したLLイベントは、そんな多様なプログラミング好きが「全員がアウェーな立場」で交流するという、貴重で面白い機会でした。 実際、「LL」の1つめのLには去年までは「Lightweight」という意味があり、その単語が示す特徴をもった言語のイベントのようにどうしても見えてたんですが、今年からはそういう区切りも公けになくし、Lは「Learn」の意味になったとのことです。

そのLLイベント2017で、「第2プログラミング言語鑑定団」というセッションに出させてもらいました。 司会の小山さんが「Teratail, Yahoo知恵袋などから、それらしい質問をかき集めてマージ」した6パターンの「次に学ぶ言語は何がいい?」に対し、鑑定団の一人としてお勧め言語を紹介せよというのがミッションでした。 ぼく以外の鑑定団のメンバーは、ささけんさん高野さん高橋さん。一癖あるすごいITエンジニアばっかりだー。このメンバーが集まるというだけで、LLイベントすごいって気持ちになりました。

いっぽう、ぼく自身はただの書籍編集者です。 自分の仕事に必要な道具を作ったり環境を整えたりはするけどエンジニアというわけではないし、プログラミングは好きで勉強はするけど研究者ではないし、 本職ではない人間になんという無茶ぶりかと思って最初は躊躇したのですが、たぶん、この記事を書かせてもらったことをきっかけに声をかけてもらえたんだろうなあ。

employment.en-japan.com

なお、上記の記事は「ElixirとRustとHaskellにちょっと興味がある人向けの紹介記事を各界の第一人者に書いてもらおう」という企画の前フリなので、そういう目線でやさしい気持ちで読んでもらうと幸いです。 ElixirRustはすでに公開中。今月中にHaskellも公開される予定です(宣伝)。

ほかの鑑定団の回答

そもそもブログで自分の回答を書くつもりはなかったんですが、ささけんさんがさっくりと自分の回答をまとめて公開したので、まとめざるを得なくなった。

[高野さんと高橋さんが何か公開されたらリンクはる予定地]

鹿野はどんな言語を勧めたか

想定質問は事前に見せてもらってたのですが、じゃあその質問に対して何を答えることが求められてるんだろうというのは、正直なところ当日になってもわからなくて、会場に着くまでは「ちょっとまずいかもなあ」と暗い気持ちでいました。 で、それを一緒に来ていた同僚に愚痴ったところ、「お勧め本を紹介したらいいじゃん」という画期的な入れ知恵をしてもらい、その路線でいくことに決めたのでした。

質問1

文系の大学4年生のときにプログラミングが好きになり、独学で C と Java の初歩を学びました。卒業後Web 制作会社に入社し、HTML, CSS,JavaScript を習得しました。Web周辺だけでは将来が不安なので、次に何を学ぶべきか考えています。アドバイスをいただけないでしょうか。

この質問を最初にみたときは「知らんがな」という思いしか去来せず、サイコロでも投げて決めろと言いたかったのですが、言語じゃなくて書籍であれば紹介すべきものがすぐに思いつきました。 五十嵐先生の『プログラミング in OCaml』です。なので、回答は「OCaml」にしました。

あらかじめ断っておくと、ぼくはOCamlを実用してるわけではありません。 OCamlのコードをいじったのは、『型システム入門』を作ったとき、OCamlで書かれた原著者ビルド環境を日本語pLaTeX向けに改修したときくらいです。 ですが、この本は、OCamlを使うつもりがとくにない人でも、独力でプログラミングを学んできたような人であれば、読むといいことがたくさん書いてあると思っています。 具体的には、OCamlというプログラミング言語でのプログラムの書き方だけでなく、どうしてそういう機構になっているのかがいちいち詳しく解説されており、プログラミング言語の理論についても味見できるようになっています。 この質問者はWeb周辺の技術を追いかける以外の勉強をしたいようだし、そういう意味でもぴったりではないかと思いました。

質問2

文系大学に通う学生ですが、昔からゲームが好きで、将来はゲームクリエイターになりたいと考えています。そうはいってもプログラミングはまだできないし、特筆したスキルもありません。ゲームクリエイターに関する書籍を読んで、将来こんなゲームを作りたいと夢を膨らませています。私がゲーム開発者になるためにはどの言語から学ぶのがよいでしょうか?

ゲーム作りたいといってる時点で、プログラミング言語を選んでる場合じゃなく、むしろどのゲームエンジンを使ってみればいいかという話なんですよね。 なので、回答は「Unity」か「Unreal Engine」にしました。

書籍として紹介したのは、『Unreal Engine 4で極めるゲーム開発』です。無責任にも自分では読んでないんですが、渋川さんが激烈に勧めているので間違いないでしょう。

質問3

Web制作会社でサーバサイドを開発しているソフトウェアエンジニアです。現在使っているプログラミング言語はRubyでフレームワークはRailsです。最近世の中でAIや機械学習がブームになっていて、私もそちら方面のスキルを磨いてより高度な作業をできるようになりたいと考えています。AIや機械学習を使いこなすのに最適なプログラミング言語は何でしょうか?

機械学習で縛られてる設問なので、Pythonからは逃げられないような気がします。ということで、回答としては「Python」。

でも、たぶんPythonを学べばどうなるものでもなく、線形代数なんかを地道に復習したほうがいいような気もします。 そのへんからかみ砕いて解説されているという点で、書籍は『ゼロから作るDeep Learning』をお勧めにしました。

質問4

SIerとして大手案件の2次下請けを仕事にしています。主に使っている言語はJavaでフレームワークはStrutsです。噂ではStrutsにもSIerにも未来はもう無いそうで、転職して他の仕事もできるようになりたいのですが、これまでJavaしか使ったことがないのでどうしたら良いか分かりません。これから学ぶのならば、なるべく長く役に立つ技術が良いと思うのですが、何がよいでしょうか。

「長く役に立つ」といったら、これまで長く使われてきた実績があり、これからもそう簡単に消えることはないであろう言語しかないだろうということで、「Common Lisp」か「Haskell」と回答しました。

書籍はそれぞれ『実践Common Lisp』と『すごいHaskell』を紹介。このへんは我田引水させてもらいました。

質問5

プログラミング初心者です。Webサイト作成のためにPHPの学習中ですが、他の言語にも興味があります。しかしなかなか難しいのもあって効率的なプログラミング学習法はないかと頭を悩ませているところです。そこで、おもしろそうと興味を持てば学習がはかどるのではと考えました。面白いプログラミング言語とその理由を教えてください。

面白いプログラミング言語といったら、とりあえずこれを押さえておけということで、「Brainfuck」です。 とはいえ、Brainfuckでプログラムを書くんじゃなく、好きな言語でBrainfuckを作ってみたらという提案をしました。 やっぱり、プログラミング言語ってこういうことなんだという実感を得るには、なんでもいいから作ってみるのがいちばんで、そのためにもBrainfuckの実装には一度は挑戦してみると楽しいと思います。

というわけで、お勧めした書籍は『Rubyで作る奇妙なプログラミング言語』。

質問6

インフラ運用エンジニアをしています。使える言語はシェルです。仕事ではたくさんのOSSを使用していますが、これらは書かれている言語がC,PHP,Python,Ruby,Node.js,Javaなど多岐にわたります。最近は自動化がブームですが、OSSを使って自動化をやっていくために、どのような言語を学ぶのがよいでしょうか。

OSSのツールを利用していくのに知っておいたほうがいい言語で、質問に出ていないものといって思いつくものは、「Go」しかありませんでした。 というわけで書籍としては『プログラミング言語Go』です。

いま思い返すとPerlとかLuaという選択肢もありえましたが、やっぱりあの場でお勧めする言語としてはGoしかありませんでした。 なぜなら、Goはラムダノートから近日中に新刊が出る予定だからです。 アスキーjpで連載していた「Goならわかるシステムプログラミング」の書籍化です! 昨日のLLイベントでも「低レイヤをかじることの重要性」は何度か強調されていて、そのたびにCやアセンブラというキーワードが出ててましたが、いまならそれこそGoで楽に学べます。 そういう趣旨で好評の連載に、著者の渋川さんが少し話を追加して、10月くらいに出せるように頑張って制作中。お楽しみに(宣伝)。

質問7(会場からの飛び入り質問)

小学三年生の息子がプログラミングをはじめるのに、Scratchのほかにどんな選択肢がありますか?

小学生にプログラミングを教えるときって、ビジュアル言語じゃない形でコンピュータの開発環境に触れる機会も必要だと思ってるんですよね。 かといって、汎用言語はそこそこ覚えないといけないことが多くてつらい。 そこで、覚えることが最小限で、コンピュータの生っぽいところを意識できる言語があればいいんですが、その条件を満たす言語はSchemeくらいしかありませんよね(異論は認める)。 というわけで「Scheme」をお勧めしました。

参考書籍はもちろん『計算機システムの構造と解釈』です(いまおもうと『Scheme手習い』という手もあった)。

2017/06/21

編集というサービスの内容(技術書編)

技術書の編集者が原稿に対して何を提供するものなのか、整理してみた。順番には意味があります。

  1. 原稿をDTP担当者が作業できるデータにする
  2. 誤字脱字、非標準的な表記を直す
  3. 表記を統一する
  4. 文法の間違い、不適切な言い回しを直す
  5. 構成の不備、内容の間違いを指摘する
  6. 構成の不備、内容の間違いを直す
  7. 冗長な内容、文脈から外れる記述を欄外に追い出したり、段落構成を手直ししたりする
  8. 段落や文を、文脈に合わせた相に書き直す
  9. 行間をうめる
  10. 解説画像やイラスト、索引などのメタ情報を作る
  11. 原稿を書く
  12. 【番外】企画する

どこまでやってほしいか、できるか、追加料金がいくら必要なのかというのを、著者・版元編集者・下請け編集者の間ではっきりさせると、みんなが幸せになる気がする。(だいたい編集外注するときって「編集作業一式」の「ページあたりの単価」になりがちで、しかしその「一式」には上記のような幅があるわけだから、人によって高いとか安いとか感じ方がいろいろ変わってしまうよね……。)

本として書店に並ぶまでに必要な作業は上記のほかにもいっぱいあり(装幀の企画と手配、権利、印刷製本、流通に関連するいろいろな仕事などなど)、上記に挙げた編集業務を担当編集者がぜんぶやるべきという話ではないはず。

たとえば、上記のうち5までは担当編集者が直接やるけど、残りは外部の査読者だったり編集者だったりを雇うことにするとか、あるいは、そこは著者の仕事であると最初から割り切る(ということを著者との間で同意しておく)ほうが、結果的に読者が手にする本にとって最善というケースもあるかもしれない。

なお、弊社では上記のすべてに対応した編集業務の受注が可能です。お気軽にご相談ください。

2016/12/30

2017年賀状

年賀状書いた。

%!PS
<< /PageSize [285 420] >> setpagedevice

/setrandcolor {% def
    /r1 {rand 5 mod 3 div} def
    /r2 {rand 4 mod 4 div} def
    /r3 {rand 3 mod 4 div} def
    r1 r2 r3 setrgbcolor
} def

/f {% def
    dup dup dup
    4 mod 0 eq {(2) 4 1 roll -1 0 rmoveto} if 
    4 mod 1 eq {(0) 3 1 roll -3 0 rmoveto} if 
    4 mod 2 eq {(1) 2 1 roll -3 0 rmoveto} if 
    4 mod 3 eq {(7 ) -5 0 rmoveto} if
} def

/i 4 def

/lineto-chars { % def
  /ex x def /ey y def
  /y exch def /x exch def
  /d x ex sub dup mul y ey sub dup mul add sqrt def
  /R y ey sub x ex sub atan def
  R rotate
  { d 0 le % ifelse
    { exit }
    { setrandcolor 
      /ra rand 5 mod 3 div 10 mul 22 add def
      /Georgia-Bold findfont
      [25 0 0 ra 0 0] makefont setfont
      i f show
      /i i 1 add def
      /d d 7 sub def }
  ifelse
  } loop
  0 R sub rotate
} def

1 1 20 { % for
  /n exch def

  newpath
  0 0 moveto
  135  45 moveto
   85 140
  110 165
  110 130 curveto
  0 0 moveto
  150 130 moveto
  155 190
  210 140
  130  40 curveto
  flattenpath
  {/y exch def /x exch def}{lineto-chars}{}{} pathforall
  gsave
  
  32 230 moveto
  0.9 0.1 0.2 setrgbcolor
  /Georgia-Bold findfont [90 0 0 100 0 0] makefont setfont
  (2017) show
  
  grestore
  showpage
} for

2017 by Keiichiro Shikano on Scribd

PSの解説でよく登場する、パスに沿った文字列描画の簡易版です。 まずflattenpathしてカレントパスをlinetoの配列に変換したあと、各linetoが描く直線がX軸になるまで回転→linetoの長さまで数字を順番に書く→回転を戻す、を繰り返しています。 どのへんが簡易版かというと、グリフを書き終わったポイントは当然ながらオリジナルのパスからはずれているのだけど、そこへ戻す処理をさぼっています。そのため、ベースになるパス(ハート型)よりも文字列の描く図形のほうが肥大していく、それもフォントや処理系によってずれ幅がけっこう違ってしまう、という緩い仕様です。 このコードはWindowsのDistillerに合わせてあります。 gsだと、なぜかずれがもう一回り大きい。

過去のやつ。

2016/12/24

JSONをTeXで組版する

昨今、ドキュメント技術の主戦場といったらウェブです(ワールドワイドなほう)。 ウェブ上ではさまざまな構造化テキストが飛び交っています。 まっさきに思いつくのは、HTMLをはじめとする、ブラウザがネイティブにレンダリングできる構造化テキストでしょう。

しかしブラウザにはJavaScriptという強力なプログラミング言語の実装が組み込まれているので、HTML以外の構造化テキストをサーバから取得して整形する場合も少なくありません。 そのようなデータ形式のひとつにJSONがあります。

最近のWebサービスでは、サーバからHTMLを送らずにJSONデータだけを送り、ブラウザがそれをJavaScriptで解析して画面表示をすべて動的に作っている場合もあるようです。 この場合にブラウザがやっていることは、ある種の自動組版だといえるでしょう。 そもそもブラウザによるHTMLのレンダリング自体が自動組版だという見方もできますが、それよりさらに抽象化した、JSONを原稿とする自動組版という考え方です。 必ずしもページ全体をJSONから表示していなくても、たとえばJSONデータから表を生成してdiv要素に差し込むといった局所的な組版もありえると思います。

ブラウザとJavaScriptでできることがTeXでできないはずがない

というわけで、TeXでJSON組版をしてみました。 題材としては、CTANの各パッケージのJSONクエリとかも考えたのですが、残念ながらCTANではパッケージの詳細説明の項目にプレーンテキストではなくHTMLが直書きされている場合があるようです。 TeXで扱うのにHTMLタグは邪魔でしかありません。 まさかCTANともあろうものが、TeXでJSONデータを利用することを考えていなかったなんて。

それに、どうせならもっとクリスマスらしい題材にしたいところです。 クリスマスといえばホワイトクリスマス、ホワイトクリスマスといえば雪だるま。雪だるまを組版するなら天気予報でしょう。 OpenWeatherMapという会社のサイトで天気予報をはじめとする気象データをJSONにより取得できるので、これを組版していきましょう。

天気予報JSONデータの取得

まずはデータの取得です。TeXからHTTPリクエストを発行する汎用の手法はないので、cURLでもwgetでも好きなものを使ってください。 OpenWeatherMapでサインアップしてAPPIDを手に入れれば、たとえば下記のようなURLによって、東京の5日後までの3時間おき予報データが取得できます。

http://api.openweathermap.org/data/2.5/forecast?q=Tokyo,jp&APPID=0000000000000
参考までに、取得できるのはこんな形のJSONデータです。
{"city":{
  "id":1850147,
  "name":"Tokyo",
  "coord":{"lon":139.691711,"lat":35.689499},
  "country":"JP",
  "population":0,
  "sys":{"population":0}},
 "cod":"200",
 "message":0.0103,
 "cnt":37,
 "list":[
    {"dt":1482483600,
     "main":
       {"temp":9.94,
        "temp_min":8.84,
        "temp_max":9.94,
        "pressure":1015.88,
        "sea_level":1017.11,
        "grnd_level":1015.88,
        "humidity":71,"temp_kf":1.1},
     "weather":[
       {"id":802,
        "main":"Clouds",
        "description":"scattered clouds",
        "icon":"03n"}],
     "clouds":{"all":36},
     "wind":{"speed":6.71,"deg":318.003},
     "rain":{},
     "sys":{"pod":"n"},
     "dt_txt":"2016-12-23 09:00:00"},
     ...

JSONデータのTeXによるパーズ

JSONデータを取得できたら、パーズします。JSONを読むパッケージが見当たらなかったので、ざっくり再帰下降パーザを書きました。TeXは関数型言語なので、素直に書けますね。

公開APIは以下の3つ。

\readJson #1 #2
第一引数に渡したコントロールシーケンスに、第二引数に渡したJSONデータが格納される
\readJsonValueById #1 #2 #3
第一引数に渡したコントロールシーケンスに、第二引数に渡したJSONデータの、第三引数の名前に対応する値が格納される
\showJsonValueById #1 #2
第一引数に渡したJSONデータの、第二引数の名前に対応する値が入力に残る

ちょっと例を見てみましょう。青字になっているのがJSONデータです。

\documentclass{article}
\usepackage{jsonlite}

\begin{document}

\readJson{\json}{{"id":[1,2,3], "class":"foo", "data":{"id":"456"}, "info":"Is this a text?"}}
\readJsonValueById{\jsonId}{\json}{"id"}     %=> expl3 sequence
\readJsonValueById{\jsonData}{\json}{"data"} %=> id:456

\readJson{\jsonJsonData}{{\jsonData}}
\showJsonValueById{\jsonJsonData}{"id"}      %=> 456

\end{document}

天気予報JSONデータを表組する

OpenWeatherMap社から提供される天気予報JSONデータから、都市名、予報の時刻、予想天気、予想気温を取ってきて、LaTeXの表として組みましょう。 各時刻の予報は、"list"という名前の配列の各要素になっているようです。 この配列に対するmapで、表の各行を整形するという戦略にします。 実はjsonliteパッケージではJSONの配列をexpl3のシーケンスとして保持するので、シーケンス用のmapが使えます。

\NewDocumentCommand{\showForecast}{ m }{%
  \begin{longtable}{ l | c | r}
    日時 & 空模様 & 気温 \\\hline
    \endfirsthead
    日時 & 空模様 & 気温 \\\hline
    \endhead
    \seq_map_function:cN #1 \format_forecast:n
  \end{longtable}
}

TeX言語のくせにシーケンスとかmapとか、お前はなにを言ってるのだ、という感じかもしれませんが、2016年にもなればそういうものなんです。 そもそもTeXは関数型言語なのだからシーケンスに対するmapくらいできないはずがありません。

あとは、\format_forecast:nを書いていくだけなんですが、 OpenWeatherMap社のデータで"weather"がさらに配列になっていたりして無駄にめんどくさいので解説は省略します。 jsonliteパッケージと同じディレクトリに完全なコードを置いてあるので参考にしてください。

天気記号のサポート数がそこそこあるDejaVuSansを使いたかったので、XeLaTeXで実行してみた結果がこれです。DejaVuSansの☃はどことなく品がいいですね。

ところで、Brzozie(ブジョジェ)という地名がどこなのか気になった人がいるかもしれません。ブジョジェはポーランドの湖水地方で、バホテク湖があるところです。来年のTUG2017は、このバホテク湖で毎年開催されているBachoTeXというイベントと合同で5月に開催されることになっています。なんとか参加するぞ。

そしてこの記事は、第五回となるTeX&LaTeXアドベントカレンダーの24日めの記事です。 昨日はアセトアミノフェンさん(この記事を見てDejaVuSansを使うことを思いつきました)、明日の最終日はZRさんです。

2016/12/03

独立系出版社をやるという覚悟について

カナダ最大の都市であるトロントから北に向かって1時間ちょっと、荒野だか畑だか牧場だかよくわからない広大な土地を走り抜けたところに、エリンという小さな村があります。 19世紀に開拓された当時からメインストリートであったと思われる道が、川の蛇行している部分を堰き止めるように貫いていて、その両脇だけで主な商圏が形成されているような素朴な村です。

そんな小さな村に、なんと出版社があります。 その名もThe Porcupine’s Quill。 直訳すると「ヤマアラシの針」ですね。 言うまでもなく独立系の出版社で、大手からは陽の目を見るのが難しいカナダ発の文学者やアーティストの作品を手掛けているようです。

今年の7月、この《ヤマアラシの針出版》を訪問する機会がありました。 世界中のTeX関係者が集まるTUGという会合があるんですが、2016年の開催地がトロントで、その一環として《ヤマアラシの針出版》の見学会が組まれていたのです。 トロントからエリン村まで農道(もしくは牧道)を延々とかっ飛ばし、パン屋さんの前でマイクロバスを降りると、その何軒か隣の靴屋みたいな建物が《ヤマアラシの針出版》の本社でした。

SDIM0346

こんなカナダのど田舎に本社を構えているというだけで十分に話として面白いんですが、この出版社、他の多くの出版社と違って、印刷から製本まで本づくりのすべてを自前でやっています。 それも、ドイツ製のオフセット印刷機やら製本機やらを社内に一式すべて用意し、経営者であるティムさんと奥さんのエルクさんが手作業で本を作っているのです。 ちなみに、やや出来過ぎ感がありますが、お二人の姓は「インクスター」さんといいます。

これが、さっきの建物の地下にあるHeidelberg Kordというオフセット印刷機。とてもよく手入れされていて、油でてかてかしています。インクが香ばしい。

SDIM0336

こちらは建物の1階に実装されている、本をかがるための機械。ファンシーな窓の鎧戸と陽光のせいで博物館の展示物っぽいけど、むちゃくちゃ軽快に稼働します。

SDIM0333

正直なところ、訪問前にはそれほど大きな期待はしていませんでした。 自分とは畑違いの文芸系の出版社っぽいし、そもそも出版社の仕事なんてどこも大差ありません。

しかし実際に《ヤマアラシの針出版》でティムさんから「どういう考えで本を企画し、作り、それを売ってきたか」を語ってもらい、ビンテージな機械が力学を駆使して本を作り上げるようすを目の当たりにすると、いちいち唸りっぱなしでした。 出版社っていうのは、こんなふうに本を作って売るっていう仕事であり、その骨格がまさにいま自分の目の前に展開されてるんだなと。

  • 出版社の仕事なんて、確かにどこも大差ないけれど、誠実にやっていくと結局は「モノづくり」になるんだよなという気持ち。
  • 電子書籍もいいけど、モノとしての物理は単純に強いなという気持ち。
  • 年間ノルマで本の形を整えなくても、こんなふうに、やりたい人がやりたいように出版をやれるのが健全だよなという気持ち。
  • ぼくも、完全に同じやり方ではないかもだけど、こんなふうにして本にかかわっていくぞという気持ち。

なにをかくそう、ぼくも自分で出版をやりたいと思って、昨年2015年の12月1日にラムダノート株式会社という会社を作りました。 今年2016年の7月にThe Porcupine’s Quillを訪問して、自分が仕事としてやりたいことは「本を作って買ってもらうこと」なんだなと再確認しました。 来年2017年の2月ころには、最初のタイトルとして、TLSの関連書を発行する予定です。 年が明けてしばらくしたら直販サイトで予約できるようにする予定(予定)なので、ご期待ください。

そういえば、この最初のタイトルは翻訳ものなんですが、原書を発行しているロンドンの出版社もやっぱり独立系出版社でした。 そっちもそっちで4月に訪問してたくさん刺激を受けたので、翻訳発行後にあらためてどこかで話ができればいいなと思います。

なお、この記事はラムダノート株式会社の設立にあたって出資して頂いた株式会社時雨堂の社長になんか書けといわれ、pyspaアドベントカレンダー2016のエントリーとして書きました。pyspaには脱サラする直前からずっと癒されてきました。でも、昨日はイアンさん、明日はモリヨシさんだし、あきらかに場違いな記事だろこれ。

2016/07/01

主観でプログラミング言語5種類をあっさり解説

現在プログラミング言語は200種類存在していると言われてるようですが、これはたぶんLisp族の言語だけを数えた値です。

あるプログラミング言語(汎用のもの)がどんな用途に適しているかは、人によって大きく意見が分かれるので、用途を絞ったからといって適したプログラミング言語が決められるわけではありません。そもそも今日の世界における用途が明日の世界にも存在するとは限らないし。

この記事では、ぼくがHello Worldくらいは書いたことがある言語5種類をあっさりと解説しようと思ったけど、そんな知識もないので、「プログラミングしてみたい人向け、言語に関する5つのアドバイス」です。学習しない言語の選択に役立ててください。

Go

それなりに具体的で明確な「Cを使う」理由があるのでない限り、Cで学べるようなプログラミングはGoで学んだほうがいいと思います。

HaskellかOCaml

これといった目的もなくプログラミングを始めたいなら、静的型付き言語で始めるほうがいろいろ実りがあると思います。異論は認めるけど。 HaskellやOCamlであれば、現代的なアプリケーションを試しに作ってみるのに必要なライブラリもそれなりに充実しています。

Scheme

Schemeがいいのは、コンピュータがなくてもプログラミングを学べる点です。Schemeの実装は黒板だと言われるくらいです。

正規表現

特定のアプリを意識した言語でプログラミングし始めるよりも、正規表現をひととおり自在に使えるほうが、最初のうちは役立つ場面が多いと思います。 Rubyとかも、最初は正規表現全開な感じでテキストフィルタを書いてみるのがいいと思います。

先生や友だちや同僚がよく知っている言語

というわけで、ぼくの近くにいる人はTeXから学ぶことになります。

2016/06/20

特殊エンジニア向け数学ガイドツアー本『グッド・マス』の話

6月25日、つまり今週末、『グッド・マス ギークのための数・論理・計算機科学』という本が発売されます。 話せば長い事情があって、発売前だけど訳者の次くらいに書籍の内容を熟知しているので、私的な紹介を書いてみました。

計算機のプロが書いた現代数学ガイドツアー

世に数学系の読み物はたくさん出版されています。純粋数学のプロが書いたものもあれば、そうでない人が書いたものもあります。 『グッド・マス』は、後者です。著者のマークさんは計算機科学のプロであり、数学のプロではありません。そのため、本書でいう「数学」も、コンピュータエンジニア的な目線で描かれます。 たとえば、連分数の話をするときはScalaで実装し始めるし、論理学の話をすれば「Prologはいいぞ」って始まるし、計算といったらチューリングマシンとBrainfuckでありλ計算です。 本書を一言で表すと、「コンピュータエンジニア、とくにプログラミング言語とか大好きっ子にとって興味深いであろう観光名所をめぐる現代数学ガイドツアー」です。 日常の言葉で抽象数学を分かりやすく伝える系の読み物を期待して読み始めると、肩透かしを食うと思います。

ちなみにですが、そういう方向で数学ネタを気軽に味わいたいとしたら、いまなら"Cakes, Custard and Category Theory"という本が面白いと思います。 『ケーキ、カスタード、それに圏論』というタイトルどおり、後半はまるまる圏論の何がおいしいのかを説明するのに割かれています。こないだ翻訳も出たようです(邦題には「圏論」ってないけど)。

この"Cakes, Custard and Category Theory"という本の著者であるEugenia Chengは、生粋のプロ数学者ですが、ユーチューバ―として有名だったりもします。

ナイフを振り回しながら教壇に立つチェン先生かわゆす。

『グッド・マス』の話だった

閑話休題。『グッド・マス』のゴールは、日常の言葉で抽象数学を語ることではなく、コンピュータ好きなら知っていて損のない数学ネタを一通りさらうことです。 とくに重視されてるのは、公理的に、論理を使って、構成的に数学という体系を捉える方法を伝えることです。 著者のマークさんは、冒頭の第1章から、数学の対象を日常的な感覚だけで語らないよう読者に促します。 エンジニアになじみのある日常的な感覚にも頼りつつ、数とか集合、証明といった対象を、現代数学というルールで捉えるやり方を正面から見せてくれる感じです。 数学の教科書とは違う方法で、コンピュータ好きな人が「生の数学」を味見する本だといえるでしょう。 これが本書の貴重なところだと思います。

もともと単発の記事をまとめた本ということもあって、あからさまなストーリーもなく、面白そうな部分だけをつまみ読みできます。「数って何?」みたいな前半の軽めの話題だけ読んでもいいし、Prologを使って一階の述語論理を学ぶ第4部だけ眺めてもいいし、公理的な集合論のノリをさらってみるだけでもいいでしょう。 特に最後の第6部は、正規表現とか再帰、λ計算、型といったプログラミング言語好き向けの話題で占められているので、この辺だけ読むのもお勧めです。 とはいえ後半は「数学をやってる現代人が暗に共有している意識を部外者が垣間見る」ことができるような構成になっているので、論理を扱っている第4部くらいからは順番に読むことをお勧めします。 自分は、はじめて原書を通しで読んだとき、第1章の自然数の説明でのっけからペアノの公理を持ち出してきたのも後半のためのネタ振りだったのかーと納得しました。

一方、『グッド・マス』にはあまり登場しない数学の話もたくさんあります。 解析とか位相に関するネタは本書にはまったく出てきません(ε-δのわかりやすい解説はないし、ドーナツとマグカップがどうこうみたいな話もない)。圏論もないです(Haskellのコードは出てきますが、正規表現の微分を実装するのに使われます)。 このへんの話題については期待しないでください。

あと、いわゆる一般人向け数学の本で必ず引き合いに出される黄金比については完全にコケにされているので、そういうのが好きな人は注意してください。 目次を見ると黄金比を扱っている章がありますが、これはマークさんが「おれは黄金比をもてはやす連中が嫌いだ」ということを表明するためにある章です。黄金比ネタが好きな人にはこの本はお勧めできません。

もうひとつ触れておきたいのは、なるべく読み手が飽きないようにしたいと思うあまりにマークさんの筆がちょくちょく滑るという点です。 ところどころ自由すぎる解釈で書き進めてしまった内容を、コンピュータ系技術書版元であるPragProgsには編集しきることができなかったのか、原書には突っ込みどころのある箇所や単純なミスがけっこう残っています。 ただし、そんな暴走気味の部分はcocoatomoが訳注などでしっかり引き締めてくれているし、 翻訳版のレビューをしてくれた方々(計算機と数学の両方に足をかけてるプロばかり)にも細かい部分まで目を通してもらえてるので、 原文の微妙な勘違いはかなり補正されていました。 翻訳版は、私が企画時にぼんやり思い描いていた以上に、かなり安心して楽しめる内容に仕上がっていると思います。

というわけで6月25日発売の『グッド・マス ギークのための数・論理・計算機科学』、コンピュータをふだんから使っていて、もうちょっと数学的な考え方を知りたいよという人には、とっかかりとしてお勧めです。

個人的なあとがき

本書のもとになっているのは、主に「数学」に関連したネタを扱う英語圏では有名な古参のブログ "Good Math / Bad Math" です。 "Good Math / Bad Math"は、いまほどインターネット上に一般向け数学ネタが溢れていなかったころから勢いのある筆致で数学系の記事を量産してきたブログで、 幾度かの移転を経て現在でもわりと活発に更新が続いています。

"Good Math / Bad Math"
http://www.goodmath.org

過去には『マンガでわかる統計学』の英語版に対する肯定的なレビューがアップされたことなんかもありました。 『マンガでわかる統計学』は英語版もかなりよく売れたんですが、その認知度はこのブログにおける紹介記事で一気にあがった感があります。 (ただしシリーズ全体の認知度として見ると、Boing Boingで『マンガでわかるデータベース』がネタ的に扱われたことのほうが大きい)

"BOOK REVIEW: THE MANGA GUIDE TO STATISTICS"
http://www.goodmath.org/blog/2008/12/13/book-review-the-manga-guide-to-statistics/

自分はたまたま『マンガでわかる統計学』の英語版に少し関与していたこともあって、 それからしばらく"Good Math / Bad Math"の記事をちょくちょくチェックしていました。 そんなある日、「このブログをもとにして本を出すよ」という記事が掲載されます。 しかも出版社はPragmatic Bookshelf社とのこと。 Pragmatic Bookshelf社といえば、『RailsによるアジャイルWebプログラミング』とか『プログラミングErlang』とか『情熱プログラマー』といったIT系書籍で有名な版元です。 これは面白い本になるに違いないと思いながら、続報を待つこと4年、ようやく2013年にベータ版の書籍が発売開始になったのでした。

さっそくβ版を自分で買ってKindleに突っ込み、一通り目を通してみて、「間違いなくそのうちどこかで日本語版が出るだろうな」と確信しました。 と同時に、あちこちマークアップの変換結果がコケていたりして、商品としての出来には微妙なところも感じていました。Pragmatic Bookshelf社では独自形式のXML原稿から紙の書籍と電子書籍を生成しているんですが、 それなりに数式が多く含まれる本書の原稿に対し、その変換処理の調整がいまいちうまくいっていないのは明白でした。

「どうせ日本語版が出るなら訳本には自分自身が関与したい、いやむしろ、自分が関与せずに日本語版が作られたら書籍として残念な出来になってしまいかねないぞ」 というわけのわからない使命感に駆られ、当時所属していた出版社で版権を抑えたうえで翻訳に興味がある有識者がいないかなーと思ってこんなツイートをしてみたのでした。

このツイートに見事に引っかかってくれたのが、そのちょっと前に「スタート代数」という勉強会を主催していたcocoatomoさんでした。 自分もスタート代数に何回か参加していたことから、お互いに何となく面識があったこともあって、企画を通して翻訳を進めてもらうまでは実に順調に話が進みました。 原著の原稿データから日本語版のPDFを自動生成する環境はこちらで用意し、cocoatomoさんにも翻訳をこまめにgit pushしてもらっていたので、 あとは日本語版が少しずつ形になっていくのを時々眺めていればいいという、(個人的には)きわめて理想的な感じで制作が進んでいきました。

ところが、翻訳がずいぶん進んで編集もぼちぼち開始し、これからいよいよ制作も本格化しようという段階になって、自分自身が会社を辞めるしかないという不測の事態になってしまいました。 発行までの実務は会社に残った同僚に引き継げることになったし、cocoatomoさんの好意でその後も翻訳制作の作業にリモートで口を出し続けることはできたのですが、直接の担当者として最後まで携われないまま辞めるというのは正直つらい選択でした(念のため補足しておくと、もっとつらいことがあったので辞めた)。

その翻訳版が、ついに6月25日に発行されることになりました。感無量です。 数式を含むマークアップの変換についても、仕込んでおいたCI上での作業プロセスを外注で回してもらえたので、書籍として申し分ない感じに仕上がっていると思います。いまの僕には、この本がものすごく売れても特に利益的なものはないのだけど(アマゾンアソシエイトについてはよろしくお願いします)、手に取ってもらう人が増えればとてもうれしいです。