2007/06/23

Schemeの多値の正体は継続

SICPでは「多値」を表立って使うことはない。ただ、5.2.2で2種類のリストをやりとりするときに2変数のプロシージャを使った一見するとトリッキーな処理が登場して、これが実は多値なんだよという種明かしを脚注4でやっている。さらに、そのトリッキーな2変数プロシージャのことを継続(continuation)と呼ぶと説明している。

多値も継続だったのか。

噛みしめるために小さな例を考えてみた。つぎのプロシージャ one は、プロシージャ sincos が返す 2 値を受け取り、その 2 乗和を返す。sincos は引数の角度に対する sin の値と cos の値を返すので、プロシージャ one は引数にどんな数値を指定しても実数の 1 を返す。
(define (one rad)
(receive (sin cos)
(sincos rad)
(+ (* sin sin) (* cos cos))))

(define (sincos rad)
(values
(sin rad) (cos rad)))
このプロシージャ one は、values や receive という組み込みの多値のしくみを使わなくても、つぎのように継続を表すプロシージャ cont を使って多値を模倣できる。
(define (one rad)
(sincos
rad
(lambda (sine cosine)
(+ (* sine sine) (* cosine cosine)))))

(define (sincos rad cont)
(cont (sin rad) (cos rad)))
いちおう実行結果。
gosh>(one 123456)
1.0
gosh>(one -9876)
1.0


まとめ

計算の一部または全部をどうにかしたい場合があって(よその関数に渡したいとか、ちょっと保留しておきたいとか)、そのときの定石は「プロシージャでくるんでしまえ」。で、そういうプロシージャのことを「継続」(continuation)と呼ぶ。

2007/06/18

ついやってしまった。

Functional Programming IAT
関数型指数(潜在的な関数型プログラミングの嗜好度)をはかる IAT
http://dame.dyndns.org/misc/fpiat/


「あなたの関数型指数は 0.62331761674765 です。正が関数型、負が手続き型です。」

でも、設問では"Lisp"(Schemeではない)が関数型言語とされているんだけど、それはどうなの?

2007/06/17

練習問題を放置したままだったSICPの第5章をぽちぽち再開。こうやって再読してみると、すっかりどんな話だったか忘れてる。やっぱり手を動かさないで本を読んでいるだけじゃなんにも身につかない。編集という、まさに読んでいるだけの職業に自分が従事している現実を呪うのはこういう瞬間だ。ただの逆ギレだけど。

というわけで第5章の練習問題に着手しはじめた。ところがすぐに困っちゃったのは、この章の内容がGauche(などのSchemeインタプリタ)で式を実行すれば確かめられる話じゃないこと。とくに5.2節でレジスタマシンのシミュレータをSchemeで作るまでは、紙と鉛筆でデータの流れを図示したりしながら、脳内レジスタマシンを妄想して読み進めるしかない。「レジスタマシンの動作を手でシミュレートしろ」といった問題を考えるのは楽しいんだけど、どうにも「わかった気になっているだけかも」という懸念がぬぐえないのが気持ち悪い。どうでもいいけど、専門書や専門雑誌の編集者を楽しく長く続けていくのに求められる最強のスキルは、「わかった気になったところで留まっていられる」ことだとおもう。前々から気がついてはいたけれど、最近になってひどく実感するようになった。こういう感情をわざわざ書きとめているということは、そういうことだ。ここまでどうでもいい話。

この気持ち悪さはレジスタマシンがあれば解決する。かといって5.2節でシミュレータを作るまで待ってられないし(経験上、1問でも練習問題をぬかすと最後まで練習問題に手をつけずに読了する。帰納法で証明できたらかっこいいかもね)、そもそもSchemeでシミュレートするっていうのも気持ちが悪い。最初にこの章を読んだときは「これは教科書として画期的なアイデアだ」と思ったけど、実際はめんどくささのランクをひとつ繰り上げているだけなような気もする。

アセンブリというわけにもいかないので、Cで書いてみることにした。たとえばフィボナッチ数列の第n項を求めるレジスタマシンのコントローラ(原書512ページのFigure5.12)。
/* Implementation of a recursive fibonachi machine in C.
(Figure 5.12 of "SICP")
2007/6/17
k16.shikano@gmail.com
*/

#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#define STACKSIZE 100

void fibloop();
void afterfib1();
void afterfib2();
void fibdone();
void immediate();
void rtc(int);

void initstack();
void save(int);
int restore();

int cont = 0;
int val;
int n;

main(int argc, char *argv[])
{
initstack();
n = atol(argv[1]);

fibloop();
}

void fibloop()
{
while(n >= 2)
{
save(cont);
cont = 1;
save(n);
n = n - 1;
}
immediate();
}

void afterfib1()
{
n = restore();
cont = restore();
n = n - 2;
save(cont);
cont = 2;
save(val);
fibloop();
}

void afterfib2()
{
n = val;
val = restore();
cont = restore();
val = val + n;
rtc(cont);
}

void immediate()
{
val = n;
rtc(cont);
}

void fibdone()
{
printf("answer = %d\n", val);
exit(1);
}


/* return to continue */
void rtc(int c)
{
switch(c)
{
case 0: fibdone();
case 1: afterfib1();
case 2: afterfib2();
}
}


/* naive stack implementation */
int stack[STACKSIZE];
int *pstack;
int *pinit;

void initstack()
{
pstack=stack;
pinit=pstack;
}

void save(int val)
{
if (pstack > pinit+STACKSIZE){
perror("Reached Stack End");
exit(1);
}

*pstack=val;
++pstack;
}

int restore()
{
if (pstack == pinit){
perror("Reached Stack Head");
exit(1);
}

--pstack;
return *pstack;
}
スタックの機能をでっちあげて、Figure5.12にあるSchemeっぽい式をもじどおりCに置き換えただけ。コンパイルして実行すると(想定内のセグメンテーション違反はおこすけど)あっさりうごく。
k16@debian:~/play $ ./fib 24
answer = 46368
k16@debian:~/play $ ./fib 25
セグメンテーション違反です

これは、Cでフィボナッチを書きました、という話ではなく、これまでSchemeというレイヤでプログラミングしているときに再帰関数だと思っていたコレが、
(define (fib n)
(if (< n 2)
n
(+ (fib (- n 1)) (fib (- n 2)))))
その下のレイヤでは上記のCのコードのようなレジスタへの代入とスタックへの出し入れだけの形(現代のコンピュータがかろうじて完璧に扱える形)に解くほぐせて、しかも動く、という話なんだよね。プログラミング言語っていうのは、もしかして、ここで手動で試してみたコードからコードへの変換みたいな処理を自動的に行うしくみのことなのか?

なんだかこの本を読みはじめたときのようなわくわく感が。

2007/05/31

地球の裏側までトンネルを掘ってボールを落としたらどうなるかという話題になった。空気がなくて、他の天体の重力の影響を無視できて、トンネルが地球の重心を通る直線で、トンネルの壁が重力によって押しつぶされなくて、なんかほかにもいろいろ条件を満たすなら、ボールは反対側の地表付近まで届く。トンネルの途中でぴたっと止まっちゃうことはない。力学は昔も今もさっぱり自信がないんだけど、その理由を文章で説明するとしたらこんな感じになると思う。
ボールはトンネルの真ん中まで落ちるあいだ、つねに一定の加速度で移動する。
つまり、どんどん速度が増える。
トンネルの真ん中付近を突っ切るときが最速で、そこから先は正反対の向きの加速度で移動する。
つまり、だんだんゆっくりになる。
そのうち前半の行程で得たエネルギーを使い果たし、反対側の地表付近で一瞬静止して、今度はもときた方向へ落ちていく。
以下繰り返し。

で、こういう問題を考えるときは「地球の中心に全質量が集中している」と見たてることになっているわけだけど、その理由を説明するのがむずい。この場合の「見たて」は、たとえば数学で「0.99999… = 1」とか規定するのと違って、そう考えると議論に都合がいいからという性質だけのものじゃなく、もっと本質的な話だったはず(もちろん、どんな理学的な説明だって「そのほうが都合がいいから」って言い方はできるんだろうけど……)。で、昼休みにWikipediaを見てみたら、あっさり証明がのっていた。(読んではいない)

Shell theorem
http://en.wikipedia.org/wiki/Newton%27s_sphere_theorem

もしボールがトンネルを移動している最中に球に地球が真っ二つに割れたら?という話も出たけど、それまでにボールが得ている運動エネルギーと変化した周囲の重力から得るエネルギーとが均衡するように動くとしか……(実際には地球を真っ二つに割ることになった外因からのエネルギーがいちばん大きく影響するんじゃない?)

2007/05/28

パズル「グリッド色分け問題」少し改良版

「組合せ最適化」をぱらぱらめくったけど安直な方法が見つけられなかったので、オクトーバーフェストに行ってビールをのみながらほげほげ考えていたら、行ごとに組み合わせを求めつつ枝刈りして、それを枝刈りしながら列に集めれば、ずいぶんメモリを省略できるはずだと思いついた。実際これはうまくいって、4x4程度なら瞬時に計算できる。

たとえば10番目に得られた結果。10番目であることに特に意味はない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


(use srfi-1)
(use util.stream)

(define (line-colorings width colors pred)
(cond ((= 1 width)
(apply stream (zip (iota colors colors -1))))
((= 0 colors)
stream-null)
(else
(let R ((top colors))
(if (= 0 top)
stream-null
(stream-append
(stream-filter
pred
(stream-map (cut cons top <>)
(line-colorings (- width 1) colors pred)))
(R (- top 1))))))))

;; (stream of lists) -> (stream of lists)
(define (grid-colorings hight rows patterns pred)
(cond ((= 1 hight)
patterns)
((stream-null? patterns)
stream-null)
(else
(let R ((top (stream-car patterns))
(rest (stream-cdr patterns)))
(stream-append
(stream-filter
pred
(stream-map (cut append top <>)
(grid-colorings (- hight 1) rows patterns pred)))
(if (stream-null? rest)
stream-null
(R (stream-car rest) (stream-cdr rest))))))))

(define (tiles lines rows colors)
(stream-filter
(cut egalite? <> (quotient (* lines rows) colors) colors)
(grid-colorings lines rows
(line-colorings rows colors
(cut stripe? <>))
(cut staggered? <> rows))))


;;;; predicates
; Doesn't the list contain adjacent cells with same color?
(define (stripe? ls)
(cond ((null? ls)
#t)
((null? (cdr ls))
#t)
(else
(let ((v (car ls))
(w (cadr ls)))
(and (not (= v w))
(stripe? (cdr ls)))))))

; Doesn't the list contain vertically adjucent cells with same color?
(define (staggered? ls rows)
(let R ((rows (transpose ls rows)))
(if (null? rows)
#t
(and (stripe? (car rows))
(R (cdr rows))))))

; Does each color appear at least n times?
(define (egalite? ls n c)
(let R ((c c) (ls ls))
(cond ((= c 0) #t)
((< (length ls) n) #f)
(else
(receive (the-colors rest)
(partition (cut = c <>) ls)
(and (>= (length the-colors) n)
(R (- c 1) rest)))))))



;;;; some list utils
(define (group ls n)
(receive (front end)
(split-at ls n)
(if (null? end)
(list ls)
(cons front (group end n)))))
(define (transpose ls rows)
(apply zip (group ls rows)))

2007/05/26

パズル「グリッド色分け問題」をSchemeで解く

自宅のトイレにはディック・ブルーナのポスターがもう何年も張ってある。全体がグリッドに仕切られていて、そのひとつひとつに彼の代表作から抜き出した絵が並べられてるんだけど、そのうちの1枚に描かれているテーブルクロスの柄が気になってしょうがない。

R0011516

どうしてこのテーブルクロスは、きちんと格子が塗り分けられていないんだろう。左下で青いマスが横に並んじゃっているのがどうにも気持ち悪い。行列の成分でいうと33と34の2つ。もしスプーンがおかれてなかったら境界が識別できないじゃないか。4x4のグリッドを3色で塗り分けるパターンなんていくらもあるだろうに。

というわけでパターンを求めてみる。

戦略は、まず塗り分けのパターンをすべて求めて(つまり隣同士が同じ色に塗られるパターンを含む)、そのうちで3色をちゃんと使ってうまく塗り分けられているものを取り出す。

「3色をちゃんと使ってうまく塗り分けられている」はどう評価しよう? 
とりあえず、どの色も少なくとも5回(16÷3)は使われていて、隣同士が違う色になっていればよしとしよう。(デザイン上のよしあしを評価するとしたら何を考えたらいい?)

4x4のグリッドを塗り分けるパターンは、長さ16のリストであらわすことにする。使う色は1,2,3という数値で表す。つまり、リストの各要素には、各マスの色を意味する1,2,3のいずれかの数値がはいる。これをグリッドの左上→右下という順番で並べる。たとえば以下のような塗り分けは、(1 3 2 3 3 2 1 2 1 3 2 1 3 2 1 3) というリストであらわすことにする。( 1:青、2:オレンジ、3:緑)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


隣同士が別の色で塗り分けられているかどうかは、ベタに縦横の関係を調べる patch? というプロシージャを定義して、それで済ませることにする。
(define (stripe? ls)
(cond ((null? ls)
#t)
((null? (cdr ls))
#t)
(else
(let ((v (car ls))
(w (cadr ls)))
(and (not (= v w))
(stripe? (cdr ls)))))))
(define (patch? ls n m)
(and (let L ((lines (group ls n)))
(if (null? lines)
#t
(and (stripe? (car lines))
(L (cdr lines)))))
(let R ((rows (transpose ls n)))
(if (null? rows)
#t
(and (stripe? (car rows))
(R (cdr rows)))))))
ところでgroupとtransposeは、いつも使いたいときに一瞬探すんだけど見つからなくて、そのたびに下手な実装をしてる気がする。今回はこんなんで。
(define (group ls n)
(receive (front end)
(split-at ls n)
(if (null? end)
(list ls)
(cons front (group end n)))))
(define (transpose ls rows)
(apply zip (group ls rows)))

塗り分けパターンをすべて求めるにはどうしたらいいか。

たとえば、3つのマスを3色で塗り分けるやり方をすべて求めることを考えてみよう。以下のようなマスA,B,Cを緑黒赤の3色で塗り分けるパターンをすべて求めたい。

A
B
C


いま、都合よく R という関数があって、これを使うと2マスを3色で塗り分けパターンが全部求められるとしよう。R を使えば、以下の 3つの結果をよせ集めることで、3マスの塗り分けパターンを求めることができる。
  1. Aを緑に塗って、BとCは R に従って塗り分ける全パターン
  2. Aを黒に塗って、BとCは R に従って塗り分ける全パターン
  3. Aを赤に塗って、BとCは R に従って塗り分ける全パターン
ようするに、うしろの塗り分け方さえ全部求まってれば、先頭の色だけとっかえひっかえした結果をよせ集めることで、全体の塗り分けがすべて得られる。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


このアイデアをストリームを使ってダイレクトにコードにするとこんな感じ。Scheme だと簡単すぎ。
(use srfi-1)
(use util.stream)

(define (gen-colorings width colors)
(cond ((= 1 width)
(apply stream (zip (iota colors colors -1))))
((= 0 colors)
stream-null)
(else
(let R ((top colors))
(if (= 0 top)
stream-null
(stream-append
(stream-map (cut cons top <>)
(gen-colorings (- width 1) colors))
(R (- top 1))))))))
あとは、先に定義した patch? を使ってストリームをフィルタリングすればいい。どの色もだいたい平等に塗られているかどうかを調べるプロシージャ egalite? も定義しておいて、ここであわせてフィルタリングする。

(define (tiles n m c)
(stream-filter
(lambda (tone)
(and
(egalite? tone n c)
(patch? tone n m))
(gen-colorings (* n m) c)))

(define (egalite? ls n c)
(let R ((c c) (ls ls))
(cond ((= c 0) #t)
((< (length ls) n) #f)
(else
(receive (the-colors rest)
(partition (cut = c <>) ls)
(and (>= (length the-colors) n)
(R (- c 1) rest)))))))
これで (tiles 4 4 3) とかって実行すれば、塗り分けパターンを順次計算してくれるストリームが帰ってくる。はずなんだけど、実際には組み合わせが爆発しちゃう。16マスを3色に塗り分けようと思ったら 316 = 43,046,721 のパターンがありうるわけで、すべての塗り分けパターンからなるリストを作ったりすると巨大なリストになって身動きが取れなくなると思ってストリームを使ってみたんだけど、どのみち4x4=16マスの3色塗り分けを全部求めるのは無理だったもよう。
しかたがないので、問題を1行小さくして 3x4 の横長のテーブルクロスの3色塗り分けを求めてお茶を濁すことにした。
gosh> (define s (tiles 4 3 3))
s
gosh> (stream->ref s 1)
(3 2 1 3 2 1 3 2 1 2 1 3)
gosh> (stream-ref s 2)
(3 2 1 3 2 1 2 1 3 2 1 3)
gosh> (stream-ref s 3)
(3 2 1 2 1 3 2 1 3 2 1 3)
gosh>
最初に得られる結果を先の色定義( 1:青、2:オレンジ、3:緑)で塗り分けると、こうなる。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


ついでに、このHTMLテーブルを描くのにでっちあげた補助関数。
(define (tile->html tile rownum)
(define (num->color n)
(cond
((= 1 n) "blue")
((= 2 n) "orange")
((= 3 n) "green")
(else "black")
))
(define (line->str line)
(string-append
"<tr>\n "
(apply string-append
(map (lambda (cell)
(string-append "<td style=\"background-color:"
(num->color cell)
"\"><div style=\"width:1em\">&nbsp;</div></td>"))
line))
"\n</tr>\n"))
(define (lines->str lines)
(string-append "<table>\n"
(apply string-append (map (cut line->str <>) lines))
"</table>\n"))
(lines->str (group tile rownum)))
しかし、tilesの引数は順番を逆にするべきだったな。行と列がいれかわってて紛らわしいことこのうえない。

2007/05/18

XMLっぽい構造をパースする

指定した範囲の内側でだけ、テキストのパターン置換をしたい。つまり、こういうことがしたい。
gosh> str
"<title>
<en>Introduction</en>
<ja>は じ め に</ja>
</title>
<p>
<en>
Here we'll discuss about english
<footnote>
<p class="footnote">
Or, any language you speak as a native tongue.
</p>
</footnote>
.
</en>
<ja>
ここでは日本語
<footnote>
<p class="footnote">
で な く て も、母 国 語 な ら な ん で も い い。
</p>
</footnote>
について説明しよう。
</ja>
</p>"


gosh> (regexp-replace-all-among-all 'ja #/\b\s\b/ str "")
"<title>
<en>Introduction</en>
<ja>はじめに</ja>
</title>
<p>
<en>
Here we'll discuss about english
<footnote>
<p class="footnote">
Or, any language you speak as a native tongue.
</p>
</footnote>
.
</en>
<ja>
ここでは日本語
<footnote>
<p class="footnote">
でなくても、母国語ならなんでもいい。
</p>
</footnote>
について説明しよう。
</ja>
</p>"


先日のような邪道な試行錯誤をしたり、再帰下降パーザについて少し勉強したりした結果、地道にパーズするのがいちばんだということがよく分かった。PerlやJaveなら優れたXML処理のライブラリを使うべきなのかもしれないね。

置換をほどこしたい領域(上の例では<ja>...</ja>の部分)を取り出すことから考えよう。その前に、XMLっぽいテキストを構成するパーツを先頭から順番に取り出してくれるプロシージャ read-xml があると仮定する。read-xml を一回呼ぶと、「<title>」や「<p class="footnote">」のようなタグ、もしくは、タグの前後の本文を、テキストの先頭から順番にゲットできる。こんな感じ。
(with-input-from-string "aaa<p>bbb</p>ccc"
(lambda ()
(read-xml) ; ⇒ aaa
(read-xml) ; ⇒ <p>
(read-xml) ; ⇒ bbb
(read-xml) ; ⇒ </p>
(read-xml) ; ⇒ ccc
))

この read-xml でひとつずつパーツを取り出してチェックしていく。探している領域を開始するタグ(いまの例では<ja>)が取り出せたら、終了を表すタグ(いまの例では</ja>)が現れるまで次々にパーツをつないでいくことで、ほしい領域が取り出せる。領域がネストしている可能性もあるので、開始タグの数もチェックしておくようにする。ざっくり書くとこんな感じ。利便性を考えて、領域の前後の文字列も返すようにした。
(define (xml-maximal-region tagname)
(define (xmltag? e)
(and (> (string-length e) 1)
(char=? #\< (string-ref e 0))))
(define (tag->name e)
(string-trim-right
(x->string (string-drop e 1))
#\>))
(define (start-tag? e)
(and (xmltag? e)
(equal? (x->string tagname)
(tag->name e))))
(define (end-tag? e)
(and (xmltag? e)
(equal? (x->string tagname)
(string-drop (tag->name e) 1))))
(define (rest-xml)
(let R ((next (read-xml)))
(if (string-null? next)
""
(string-append next (R (read-xml))))))
(define (in-region e body c before)
(cond ((string-null? e)
(error "Premature end of input -- GET-XMLTAGGED-MAXIMAL-REGION"))
((end-tag? e)
(if (= 0 c)
(values before (string-append body e) (rest-xml))
(in-region (read-xml) (string-append body e) (- c 1) before)))
((start-tag? e)
(in-region (read-xml) (string-append body e) (+ c 1) before))
(else
(in-region (read-xml) (string-append body e) c before))))
(define (out-region e body before)
(cond ((string-null? e)
(values before "" ""))
((start-tag? e)
(in-region (read-xml) e 0 before))
(else
(out-region (read-xml) body (string-append before e)))))
(out-region (read-xml) "" ""))

この xml-maximal-region を使えば、求めるプロシージャ regexp-replace-all-among-all が簡単に定義できる。
(define (regexp-replace-all-among-all region-declaration rx str sub)
(with-input-from-string str
(lambda ()
(receive (before region after)
(xml-maximal-region region-declaration)
(string-append before
(regexp-replace-all rx region sub)
(if (string-null? after)
after
(regexp-replace-all-among-all region-declaration rx after sub)))))))
あとは read-xml を書けばいい。むずかしいところはないけど面倒。長いので、全体とあわせて下記を参照。

replace-among.scm


References

「なんでも再帰」Shiro Kawai(2003/1)
http://www.shiro.dreamhost.com/scheme/docs/tailcall-j.html

『Perl & XML』:Erik T. Ray,Jason McIntosh(2002/11)
http://www.amazon.co.jp/dp/4873111064

2007/04/30

二分木が描きたい。

Scheme を使っていると木を使うことが多い(Scheme に限らないけど)。教科書なんかには整形された木の絵がよく出てくるけど。あれはみんなどうやって描いているんだろう。きっと PostScript のコマンドを生成したりして描いているに違いない。そこで、再帰下降パーザの例としてありがちな四則演算を表す木を描くのに挑戦してみた。

arithmetic-culc-tree.scm
$ gosh arithmetic-culc-tree -tree ps
1*2+3*((4+5)-7)/(8+9)
%!
<< /PageSize [460.0 350.0] >> setpagedevice
newpath
175.0 297.0 moveto
85.0 270.0 lineto
175.0 297.0 moveto
265.0 270.0 lineto
...(以下略)

convert で png に変換した結果。

もうちょっと見ための改善の余地がありそうだけどもうつかれた。

2007/03/30

Gaucheの単体テストで、副作用により標準出力に書き出す処理(displayとか)の動作をテストしたい。つまり、こんな単体テストをしたい。
(test* "display test"
"foobar string"
(display "foobar string"))
もちろんこれは失敗する。関数 test は equal? で第2引数と第3引数を比較するだけだから。オプション引数を与えて比較に使うプロシージャを変更することもできるけど、そもそも上記のような display のテストでは第3引数を評価した値が # でしかないので、テストの意味をなさない。

display の動作を脳内シミュレートすると、こんなふうに出力ポートを曲げればうまくいきそう。
(test* "display test"
"foobar string"
(with-output-to-string (lambda () (display "foobar string"))))
どうやらうまくいく。あとはこんなマクロをでっちあげておけばうれしい。
(define-syntax test-with-output*
(syntax-rules ()
((_ e1 e2 e3)
(test* e1 e2 (with-output-to-string (lambda () e3))))
((_ e1 e2 e3 e4)
(test* e1 e2 (with-output-to-string (lambda () e3)) e4))))
結果。
gosh >(test-with-output* "display test"
"foobar string"
(display "foobar string"))

test global conversion 2, expects "foobar string" ==> ok
#<undef>

2007/03/24

文字列を螺旋にそって描く。これに似ているけど、もっと単純に、ASCIIのみからなる文字列を同心円状の渦巻に沿って出力する。交差はさせない。(できない)

howm wiki - spiral.el
http://howm.sourceforge.jp/cgi-bin/hiki/hiki.cgi?SpiralDotEl

昨日定義した関数たちを改良して、
  • 螺旋のパラメータを指定できるようにする
  • state の列に真偽値ではなく各文字を対応させる(同じ座標の state を飛ばす処理も必要)
ようにする。
;; num -> direction -> type -> [state]
(define (make-spiral-states length start-x start-y start-direction l-or-r)
(define (make-spiral-series total)
(let* ((most (floor (/ (- (sqrt (+ 1 (* 8 (- total 1)))) 1) 2)))
(lmost (iota (- most 1) 2 1))
(rest (- total (fold + 1 lmost))))
(append (list 2) lmost (if (zero? rest) '() (list rest)))))
(let ((series (make-spiral-series length))
(init-state (make-state start-x start-y start-direction))
(turn (if (equal? l-or-r 'left) turn-left turn-right)))
(scanf init-state (concatenate (map (lambda (n) (append (keep-moving n) (list turn))) series)))))

;; [state] -> [codes]
(define (normalize states)
(let R ((ps '()) (codes (map car states)))
(cond ((null? codes)
ps)
((member (car codes) ps)
(R ps (cdr codes)))
(else
(R (cons (car codes) ps) (cdr codes))))))

;; [codes] -> [state]
(define (stick-char codes chars)
(map (cut list <> <>) codes chars))

;; [state] -> [[char]]
(define (bitmap ps)
(define (range xs)
(list-ec (: i (apply min xs) (+ (apply max xs) 1)) i))
(define (corresponding-char code ps)
(cond ((null? ps) " ")
((equal? code (caar ps)) (cadar ps))
(else (corresponding-char code (cdr ps)))))
(let ((codes (map car ps)))
(list-ec (: x (range (map car codes)))
(list-ec (: y (range (map cadr codes)))
(corresponding-char (list x y) ps)))))

;; [[char]] -> string
(define (picture bitmap)
(string-join
(map (lambda (line) (string-join (map x->string line) "" 'strict-infix))
bitmap)
"\n" 'strict-infix))


(define (display-spiral string)
(let ((length (string-length string)))
(display
(picture
(bitmap
(stick-char
(normalize (make-spiral-states length 0 0 2 'left))
(string->list (string-join (string-split string #[\s]) "+" 'strict-infix))))))
(newline)
(values)))
実行例(サンプルの文字列は Gauche のトップページから引用)
gosh> (display-spiral "Gauche is an R5RS Scheme implementation developed to be a handy script interpreter,
which allows programmers and system administrators to write small to large scripts for their daily chores.
Quick startup, built-in system interface, native multilingual support are some of my goals.")


Gauche+
i
nterpreter,+which+all s
i o +
+ all+to+large+scri w a
t m p s n
p s ,+built-in+sy t + +
i + p s s p R
r e u ingual+su t + r 5
c t t l p e f o R
s i r i +my+g p m o g S
+ r a t f o o + r r +
y w t l o a r i + a S
d + s u + .sl t n t m c
n o + m e + t h m h
a t k + mos+era e e e e
h + c e r i r m
+ s i vitan+,ecaf r s e
a r u + + +
+ o Q+.serohc+yliad a i
e t n m
b artsinimda+metsys+d p
+ l
ot+depoleved+noitatneme


スクリプトの全体→ spiral-string.scm

2007/03/23

R.バード『関数プログラミング』の亀の子図形問題、Scheme版

『関数プログラミング』(R. バード,P.ワドラー著/武市 正人訳)に亀の子図形の例題がある。その一筆書きバージョンを Gauche で書くとこんな感じ。
;; state -> state
(define (move state)
(match state
(`((,x ,y) 0) (make-state (- x 1) y 0)) ;; N
(`((,x ,y) 1) (make-state x (- y 1) 1)) ;; W
(`((,x ,y) 2) (make-state (+ x 1) y 2)) ;; S
(`((,x ,y) 3) (make-state x (+ y 1) 3)) ;; E
))

;; state -> state
(define (turn-left state)
(let-state state
(x y d)
(make-state x y (remainder (+ d 1) 4))))
ただし、
(define (make-state x y d)
(list (list x y) d))

(define-syntax let-state
(syntax-rules ()
((_ e1 (e2 e3 e4) e5 ...)
(let ((e2 (caar e1))
(e3 (cadar e1))
(e4 (cadr e1)))
e5 ...))))
とする。

この move と turn-left(および同様に定義した turn-right)を使って「鉛筆の軌跡」をつくり、それを適当な大きさのビットマップに対応させれば、結果として絵が描ける。そのためのプロシージャは、たとえば以下のように定義すればいい。
;; [state] -> [[boole]]
(define (bitmap-by-truth-value ps)
(define (range xs)
(list-ec (: i (apply min xs) (+ (apply max xs) 1)) i))
(define (orlist ls)
(cond ((null? ls) #f)
((car ls) #t)
(else
(orlist (cdr ls)))))
(define (in? x xs)
(orlist (map (cut equal? <> x) xs)))
(let ((codes (map car ps)))
(list-ec (: x (range (map car codes)))
(list-ec (: y (range (map cadr codes)))
(in? (list x y) codes)))))

;; [[boole]] -> string
(define (picture-with-numbermark bitmap)
(string-join
(map (lambda (y)
(string-join (map (lambda (x) (if x "#" " ")) y) "" 'strict-infix))
bitmap)
"\n" 'strict-infix))
(ちなみにコード中にコメントで示している型は厳密なものではなく、コードを書くときの便宜的なものです。)

教科書には正方形を描く例がある。でもそれは面白くない。簡単な応用として螺旋模様を描いてみよう。
(define (make-simple-spiral-states length)
(define (make-spiral-series total)
(let* ((most (floor (/ (- (sqrt (+ 1 (* 8 (- total 1)))) 1) 2)))
(lmost (iota (- most 1) 2 1))
(rest (- total (fold + 1 lmost))))
(append (list 2) lmost (if (zero? rest) '() (list rest)))))
(let ((series (make-spiral-series length))
(init-state (make-state 0 0 0)))
(scanf init-state (concatenate (map (lambda (n) (append (keep-moving n) (list turn-left))) series)))))
keep-moving と scanf は以下のような関数。
;; num -> (state -> [state])
(define (keep-moving n)
(list-tabulate n (lambda (i) move)))

;; (alpha -> beta) -> gamma -> [alpha -> beta]
(define (scanf init procs)
(if (null? procs)
'()
(let ((value ((car procs) init)))
(cons value
(scanf value (cdr procs))))))

実行するとこんな感じ。
gosh> (display (picture-with-numbermark (bitmap-by-truth-value (make-simple-spiral-states 55))))
###########
#
####### #
# # #
# ### # #
# # # # #
# # # #
# ##### #
# #
##########<undef>
(srfi-1 と srfi-42 と util.match が必要)

2007/03/20

数学的帰納法は超限帰納法により証明します。超限帰納法は整列集合の性質から導かれます。たしかに大学の集合論の授業でこれを最初に知ったときはびっくりした。
うすうす感じてたんだけど、どうやら僕の生き方は「むかつき駆動」らしい。一方、人生というのは基本的に前進するほど問題が増えるので、むかつく→対応→別なことにむかつく→対応→……。


たぶん「むかつき駆動」はハッカーの定義なんかにも重なるんだと思う。でも僕はもちろんハッカーではない。むかつくポイントが彼らとは異なると思われるから。たとえば、計算機に仕事をさせられていることにむかつくことはなくて、計算機を使えていない自分にむかつく。よく言えば客観的だけど、ええかっこしいなのかもしれない。だとしたらむかつく。でもええかっこしいかもしれない自分にむかついて誤った対応(自分の外面に無頓着になるとか)をすると女の子に嫌われそうなのでやっぱりむかつく。むかー☆

2007/03/16

開始タグと終了タグで構造化されているテキストがあって、しかも同じ種類のタグが入れ子になっていたら、どうやって一番外側のグループを取り出すのが定石なんだろう。『詳解 正規表現』には何かカッコいい方法が書いてあるんだろうか。

とりあえず問題をブレークダウンすると、こんな風に入れ子になっているパターンを正規表現でうまく補足できないかなあという話。
gosh> str
"<p>This is a paragraph.
<footnote><p>Here is a paragraph in the footnote</p></footnote>
Here is a main paragraph again.</p>"

gosh> ((rxmatch #/うまいパターン/ str))
"<p>This is a paragraph.
<footnote><p>Here is a paragraph in the footnote</p></footnote>
Here is a main paragraph again.</p>"
もちろん、これじゃ困るわけ。
gosh> ((rxmatch #/<p>.*?<\/p>/ str))
"<p>This is a paragraph.
<footnote><p>Here is a paragraph in the footnote</p>"

結論。一晩寝ても「うまいパターン」は見出せなかった。というわけで、正規表現ではなくGaucheでなんとかする方向へ逃げる。

戦略としては、こんなでどうか。
  1. 開始タグをみつける。
  2. 開始タグから最初にみつけた終了タグまでを match 候補にする。(その途中で開始タグを見つけるかもしれないけど気にしない)
  3. match 候補のなかの開始タグと終了タグの数を調べる。同じなら match 候補を match にして終了。違ったら4.へ。
  4. match 候補を開始タグとみなして2.へ。
実装。
; matche to the broadest range sandwiched between two patterns
(define (rxmatch-between-pattern pattern1 pattern2 string)
(define (make-pattern pattern-string1 pattern-string2)
(string->regexp
(string-append pattern-string1 ".*?" pattern-string2)))
(define init-pattern
(make-pattern (regexp->string pattern1) (regexp->string pattern2)))
(define (num-of-matched-inner pattern string)
(let R ((head-matched (pattern string)) (n 0))
(if (not head-matched)
n
(R (pattern (rxmatch-after head-matched)) (+ n 1)))))
(let R ((matched (init-pattern string)))
(if (not matched)
#f ;; There's no match -- REGEXP-BETWEEN-PATTERN"
(if (= (num-of-matched-inner pattern1 (matched))
(num-of-matched-inner pattern2 (matched)))
matched
(R ((make-pattern (regexp-quote (matched)) (regexp->string pattern2)) string))))))
これの問題点は、異常に長いグループがあった場合に Gauche の "regexp too large." エラーが出ることだ。はてどうする?

2007/03/14

おとといの anagram は、できるだけ奇妙な reverse を考えているときに気がついた。
(define (my-reverse ls)
(append (if (null? (cddr ls))
(cdr ls)
(my-reverse (cdr ls)))
(list (car ls))))

むかしむかし reverse に悩んでいたのは、もう2年も前なのか。

2007/03/12

回文を作りたい。いや、別に回文を作りたいわけじゃないんだけど、こういう再帰もできるのかと今頃気がついてなんとなく楽しくなった22時。
(define (anagram ls)
(append (list (car ls))
(if (null? (cddr ls))
(cdr ls)
(anagram (cdr ls)))
(list (car ls))))
gosh> (anagram '(ABLE WAS I ERE))
(ABLE WAS I ERE I WAS ABLE)
例文は『On Lisp』より。

2007/03/08

連番を作るのに integ のようなプロシージャを使うのはいいけど、Schemeでは引数の評価順が規定されていないので連番の順序はどうなるか保証はないよという話。次のようなコメントをいただいたので、これを復習してきちんと消化しよう。
ところで、

gosh> (list (integ) (integ) (integ))
(1 2 3)

は,R5RSには引数の評価順が規定されていないので,これが
(3 2 1)になっても文句はいえないと思う:)

そういえばSICPの第3章にもそんな問題(ex. 3.8)があった。評価順が左→右の実装では (+ (f 0) (f 1)) が 0 だけど、右→左の実装では 1 になるような f を定義しろという問題。

その昔、この問題を解いたときに定義したのはこんなグローバル変数を使った方法だった。
(define y 0)
(define (f x)
(if (= y 0)
(begin (set! y x) 0)
(begin (set! y 1) y)))
これはダサい。いまならこう書く(えらそう)。
(define f
(let ((y 0))
(lambda (x)
(if (= y 0)
(begin (set! y x) 0)
(begin (set! y 1) y)))))

さて、ふつうの実装は左→右で評価するので、これを試すには右→左で評価してくれる実装が必要だ。まあ、この問題だけなら引数の順番を入れ替えて (+ (f 0) (f 1)) と (+ (f 1) (f 0)) を Gauche で試せばいいんだけど、せっかくSICPの第4章でメタ言語評価器(つまりSchemeで定義するSchemeのインタプリタ)を作るので、それを右→左で評価するように改造して使うことにする。それに、ex. 4.1が、まさにそのように改造せよという問題だ。ここではletも必要なので、letを追加したdata-directed スタイルのバージョン(つまりex. 4.3と4.6の成果を取り込んだもの)を使う。たぶんここら(SICP Web Site for the Japanese Edition)あたりにもあると思うけど、オレ実装は以下(getとputが必要)。

metacircular-evaluator-right-to-left.scm

gosh> 
(define f
(let ((y 0))
(lambda (x)
(if (= y 0)
(begin (set! y x) 0)
(begin (set! y 1) y)))))

f
gosh> (+ (f 0) (f 1))
0
gosh> (driver-loop)

;;; M-Eval input:
(define f
(let ((y 0))
(lambda (x)
(if (= y 0)
(begin (set! y x) 0)
(begin (set! y 1) y)))))


;;; M-Eval value:
ok

;;; M-Eval input:
(+ (f 0) (f 1))

;;; M-Eval value:
1

もちろん(list (integ) (integ) (integ))も文句を言えない結果に。
;;; M-Eval input:
(list (integ) (integ) (integ))

;;; M-Eval value:
(3 2 1)

2007/03/07

call/ccは「引数を1つとる関数」である。
call/ccは「引数を1つとるプロシージャを1つ引数にとる関数」である。
ということは、call/ccにcall/ccを引数として与えられる。
(call/cc call/cc)
これは何か。

おさらいから。call/ccは引数を1つとるプロシージャを引数にとる。
(call/cc (lambda (k) ...))    ; (A)
これをなんとなく評価してみると、内側の(lambda (k) ...)に適当な引数を与えて評価されたかのような結果が得られる。
gosh> (call/cc (lambda (k) 1))
1
gosh> (call/cc (lambda (k) (odd? 1)))
#t
このときの適当な引数が継続である。つまり、(A)を評価するとそのときの継続を引数にして内側の(lambda (k) ...)が評価される。これがcall/ccという名前の関数の動作だ。

では、そのときの継続適当な引数)ってのが具体的に何であるかを考えよう。実際に内側の(lambda (k) ...)でkを返すようにしてみても、あまり有効なヒントは得られない。
gosh> (call/cc (lambda (k) k))
#<subr continuation>
そこで、call/ccの引数であるプロシージャのなかで、kを適当なグローバル変数に代入してみる。
gosh> (define c '())
c
gosh> (call/cc (lambda (k) (set! c k) k)) ; (B)
#<subr continuation>
gosh> (c 100 "abc" (odd? 1) (display (/ 5 2)) (display "\n"))
2.5
100
"abc"
#t
#<undef>
#<undef>
どうやらcは、任意の引数をとってそれを評価するプロシージャみたいに機能している。しかしcはプロシージャではない。cとeq?の意味で同じオブジェクトであり、かつ(B)が返すはずのkも、やはりプロシージャではない。だから、こんなふうに適用することはできない。
gosh> ((call/cc (lambda (k) (set! c k) k)) 1)    ; (C)
ERROR: invalid application: (1 1)
(C)からは、kがプロシージャでないことを納得する以上に興味深いことがわかる。もしcall/ccが内側のlambdaを評価しているだけなら、(C)のように実行してエラーが返ったところで、cには(B)を評価したときと同じような動作をするオブジェクトが代入されているはずだ。ところが結果は次のとおり。
gosh> (c 100)
ERROR: invalid application: (100 1)
どうやらc(つまりk)は、外側のcall/ccがどういう文脈で評価されたかを知っている。そしてSchemeでは、そういうオブジェクトを継続と呼んでプロシージャ並みに自由に扱うことができる。

(C)の場合、call/ccの返すオブジェクトは、引数の位置に数字の1をともなって評価されようとしている((call/cc ...) 1)、引数自身(lambda (k) ... k))だ。
だから、(C)は「引数の位置に数字の1をともなって評価されようとしている数字の1」だし、(c 100)は「引数の位置に数字の1をともなって評価されようとしている数字の100」だ。いずれもエラーになって当然。

ちなみに、cは「引数の位置に数字の1をともなって評価されようとしている……」なので、次のようにcを評価すればエラーにならない。
gosh> (c (lambda (x) 1))
1
gosh> (c (lambda (x) 100))
100
もちろん最初から同様にやることもできる。
gosh> ((call/cc (lambda (k) (set! c k) k)) (lambda (x) 1))    ; (D)
1
(lambda (x) 1)とかを引数にしている限り、cの動作もあんまり変わらない。
gosh> (c (lambda (x) 1))
1
gosh> (c (lambda (x) 100))
100
しかし、この見た目に惑わされると道を見失う。(D)の結果cは「引数の位置に数字の1を返す1引数プロシージャをともなって評価されようとしている……」になるので、先のcとはまったく異なるものだ。今度のcには、「1引数プロシージャを引数にするプロシージャ」を適用できる。
gosh> (define apply100
(lambda (proc)
(proc 100)))

apply100
gosh> (c apply100)
1
くどく書けば、(c apply100)は「引数の位置に数字の1を返す1引数プロシージャをともなって評価されようとしているapply100」だ。だから1が返る。

ところで「1引数プロシージャを引数にするプロシージャ」は、わざわざapply100みたいなのを定義しなくても身近にある。call/ccだ。ということは、次の式もきちんと評価されるし、その結果もここまでくれば明らかだよね。
gosh> (c call/cc)
1


さて。

冒頭に書いたように、call/ccは引数を1つとるプロシージャを引数にとる。そこで今度は、さっき定義したapply100を使って次の式について考えてみよう。
(call/cc apply100)    ; (E)
apply100は、「引数を1つとって、その引数をプロシージャとして、そのプロシージャの引数には数字の100を束縛する」。したがってcall/ccから見ると、「call/ccを呼んだときの継続に数字の100を適用する」。トップレベルで(E)を呼べば、そのときの継続は「評価して返す」というREPLの基本動作だけなので、100が返る。
gosh> (call/cc apply100)
100


ところで「引数を1つとるプロシージャ」は、わざわざapply100を使わなくても身近にある。call/ccだ。ということは、次の式もきちんと評価される。
(call/cc call/cc)    ; (F)
call/ccは、「引数を1つとって、その引数をプロシージャとして、そのプロシージャの引数にはそのときの継続を束縛する」。したがって左のcall/ccから見ると、「左のcall/ccを呼んだときの継続に右のcall/ccを呼んだときの継続を適用する」。トップレベルで(F)を呼べば、そのときの継続は「評価して返す」というREPLの基本動作だけなので、右のcall/ccを呼んだときの継続が返る?
gosh> (call/cc call/cc)
#<subr continuation>


右のcall/ccを呼んだときの継続って何?(結局疑問形で時間切れ……)

2007/03/05

先月、連番を作るのにintegというプロシージャを定義して喜んでいたら、素直な方法はこれだという指摘をいただいた。ありがとうございます。
(define integ
(let ((n 0))
(lambda ()
(set! n (+ n 1))
n)))
なるほど。これはきっともう一度"Seasoned Schemer"を読み直すべきだな。

ところで、こういうクロージャをSICPの第3章の評価モデルで表すとどうなるんだろう。
まず考えやすいようにletをlambdaに変換して、
(define integ
((lambda (n)
(lambda ()
(set! n (+ n 1))
n))
0))
nが0に束縛された環境以下でset!が機能するのだから、こんな感じでいいのだろうか?

integ-1
『On Lisp』を読んでいると、これはLisperのためだけの本にするのはもったいないなあと強く感じる。
LisperじゃないとLispのコードが読めないので結局Lisperにしか読めないという制限はあるけど、Paul Grahamが書いていることの基底にはもっと普遍的な内容がある。
だから、『ハッカーと画家』としてまとめられたようなエッセイを通して、非Lisperであっても彼の思想に触れられるのはありがたいことだと思う。

とはいえ、『On Lisp』に書かれている表面的なこと、つまり「マクロ」がどうでもいいかというと、そんなことはまったくない。
「マクロがあるLispは最強」を超訳して対偶をとると「人手で繰り返すような作業を効率化できないシステムは屑」になる。
本当?
Paul Grahamは、マクロという仕組みが特筆すべきものであり、それがLispという道具を最強にしていると言っていると思うので、どんな道具であれ自分の使っている道具に適切なオレマクロレイヤを組み入れればそれなりに強力にできるよね、という意味で本当。

ここ1~2年くらいの仕事では、原稿の文章構造(XMLだったり簡易的なタグがつけられた平文だったり)をLaTeXに変換して印刷所に渡すPDFを生成するようにしている。
つまり、旧来のようなMacintosh上でのDTPソフトを使った組版作業を捨てている。Macintosh上でのDTPソフトを使った組版作業の何が悲しいかっていうと、だいたい技術書の原稿なんておなじような構造を持っているのに、それを毎度毎度人間が手作業でDTPソフト上に「絵」としてレイアウトしなきゃいけないとこ。ここで「毎度毎度」というのは、別の新しい本を作るたびだけじゃない。1冊の本の制作においてさえ、原稿に修正が入るたびに「絵」を描きなおす作業を繰り返さなければいけない。

そんな三途の川で石を積み上げるような地獄から抜け出るのに必要なのは、まさにマクロ。TeXのマクロがその地獄から解放してくれる……ただし編集者を別な地獄に陥れるという方法で。前の地獄が虚しさに起因するとしたら、今度の地獄はマグマ溜まりに架かったつり橋を歩かされるみたいなものだ。いつ足を滑らせて丸焦げになるかわからない。

おなじ歩くなら石橋を渡りたいので、TeXしかなかったらTeXのマクロで処理せざるを得ない処理の大部分を、TeXからは切り離してGaucheで実現しているのが現在の制作方法だといっていい。つまりマクロの層をGaucheで提供するってこと。原稿の文章構造をGaucheでLaTeXのコードに展開し、それをpLaTeXで処理するわけだ。これだけでずいぶん歩きやすくなる。LaTeXの実行時にしか知りえない情報(ページの幅とかテキストの大きさとか)にかかわる部分は本質的には扱えないけど、それも汎用を目指さなければ抜け道がないわけではない(文字数や文字の大きさを書籍ごとに決めうちすることで擬似的に代用できる)。

『On Lisp』を読んでいてびっくりしたのは、この方法が見た目にも『On Lisp』のマクロに近いということ。マクロの言語(Gauche)とコンパイルの言語(LaTeX)が異なるという大きな違いはあるけど、Gaucheが採用している文法のおかげで、ただのテキスト処理のコードなのに見た目がCLのマクロっぽくなる。たとえばTeXの環境を定義するにはこんなコードを使っている。
(define (make-tex-env env-name opt-arg args)
(let ((arg-list (string-join (map x->string args) "}{")))
(define-tag-process
env-name
(lambda (parent)
(if (not (should-not-linebreak? parent))
(display "\n"))
(display #`"\\begin{,env-name}")
(if (not (equal? opt-arg ""))
(display #`"[,opt-arg]"))
(if (not (null? args))
(display #`"{,arg-list}"))
(display "%\n"))
(lambda (string parent) (display-without-white (kick-comment string)))
(lambda (parent) (display #`"\\end{,env-name}%\n")))))
テキストリテラルのあたりに見える「,」や「`」がCLのマクロっぽさをかもし出しているように感じるのは僕だけ? これらはGaucheでテキスト処理に採用している文法だと理解しているんだけど、それがいかにセンスのいい選択であるのか、On Lispを読んで初めて気付いた。すごいよGauche。(ちなみにdefine-tag-processは入れ子になった文章構造を再帰的にTeXに変換するコードに渡すためのクロージャとして定義したもの。)

ところで、こういう「スクリプトで原稿をLaTeXに変換→PDFにコンパイル」という制作方法について、去年のはじめくらいまでは子供だましみたいだなあと卑下していた。
それは殊更に困難もなく目指すものが実現できてしまっていたからなわけだけど、困難なく実現できたのは、こういう優れたセンスのGaucheという処理系や周囲の諦観交じりの援助(とくにCさん)があったからに過ぎないわけで、感謝すると同時に、じゃあ僕にはその返答として何ができるんだろう? 本当はここでTeX界隈にも深く感謝すべきだと理解はしているけど、結局ぶーぶー言いながらTeXを使わざるをえない地獄にあえいでいる現状には満足すべきでないと思うので、自戒をこめてスルー。

なんだか『On Lisp』とは関係ない話になってきた。とにかく日本語版の『On Lisp』は、いま主編集者のhisashimさんが最後の追い上げをかけているので、早ければ3/24の週末には大きな書店で入手できるはずです。