昨今、ドキュメント技術の主戦場といったらウェブです(ワールドワイドなほう)。
ウェブ上ではさまざまな構造化テキストが飛び交っています。
まっさきに思いつくのは、HTMLをはじめとする、ブラウザがネイティブにレンダリングできる構造化テキストでしょう。
しかしブラウザにはJavaScriptという強力なプログラミング言語の実装が組み込まれているので、HTML以外の構造化テキストをサーバから取得して整形する場合も少なくありません。
そのようなデータ形式のひとつにJSONがあります。
最近のWebサービスでは、サーバからHTMLを送らずにJSONデータだけを送り、ブラウザがそれをJavaScriptで解析して画面表示をすべて動的に作っている場合もあるようです。
この場合にブラウザがやっていることは、ある種の自動組版だといえるでしょう。
そもそもブラウザによるHTMLのレンダリング自体が自動組版だという見方もできますが、それよりさらに抽象化した、JSONを原稿とする自動組版という考え方です。
必ずしもページ全体をJSONから表示していなくても、たとえばJSONデータから表を生成してdiv要素に差し込むといった局所的な組版もありえると思います。
ブラウザとJavaScriptでできることがTeXでできないはずがない
というわけで、TeXでJSON組版をしてみました。
題材としては、CTANの各パッケージのJSONクエリとかも考えたのですが、残念ながらCTANではパッケージの詳細説明の項目にプレーンテキストではなくHTMLが直書きされている場合があるようです。
TeXで扱うのにHTMLタグは邪魔でしかありません。
まさかCTANともあろうものが、TeXでJSONデータを利用することを考えていなかったなんて。
それに、どうせならもっとクリスマスらしい題材にしたいところです。
クリスマスといえばホワイトクリスマス、ホワイトクリスマスといえば雪だるま。雪だるまを組版するなら天気予報でしょう。
OpenWeatherMapという会社のサイトで天気予報をはじめとする気象データをJSONにより取得できるので、これを組版していきましょう。
天気予報JSONデータの取得
まずはデータの取得です。TeXからHTTPリクエストを発行する汎用の手法はないので、cURLでもwgetでも好きなものを使ってください。
OpenWeatherMapでサインアップしてAPPIDを手に入れれば、たとえば下記のようなURLによって、東京の5日後までの3時間おき予報データが取得できます。
http://api.openweathermap.org/data/2.5/forecast?q=Tokyo,jp&APPID=0000000000000
参考までに、取得できるのはこんな形のJSONデータです。
{"city":{
"id":1850147,
"name":"Tokyo",
"coord":{"lon":139.691711,"lat":35.689499},
"country":"JP",
"population":0,
"sys":{"population":0}},
"cod":"200",
"message":0.0103,
"cnt":37,
"list":[
{"dt":1482483600,
"main":
{"temp":9.94,
"temp_min":8.84,
"temp_max":9.94,
"pressure":1015.88,
"sea_level":1017.11,
"grnd_level":1015.88,
"humidity":71,"temp_kf":1.1},
"weather":[
{"id":802,
"main":"Clouds",
"description":"scattered clouds",
"icon":"03n"}],
"clouds":{"all":36},
"wind":{"speed":6.71,"deg":318.003},
"rain":{},
"sys":{"pod":"n"},
"dt_txt":"2016-12-23 09:00:00"},
...
JSONデータのTeXによるパーズ
JSONデータを取得できたら、パーズします。JSONを読むパッケージが見当たらなかったので、ざっくり再帰下降パーザを書きました。TeXは関数型言語なので、素直に書けますね。
公開APIは以下の3つ。
- ・
\readJson #1 #2
- 第一引数に渡したコントロールシーケンスに、第二引数に渡したJSONデータが格納される
- ・
\readJsonValueById #1 #2 #3
- 第一引数に渡したコントロールシーケンスに、第二引数に渡したJSONデータの、第三引数の名前に対応する値が格納される
- ・
\showJsonValueById #1 #2
- 第一引数に渡したJSONデータの、第二引数の名前に対応する値が入力に残る
ちょっと例を見てみましょう。青字になっているのがJSONデータです。
\documentclass{article}
\usepackage{jsonlite}
\begin{document}
\readJson{\json}{{"id":[1,2,3], "class":"foo", "data":{"id":"456"}, "info":"Is this a text?"}}
\readJsonValueById{\jsonId}{\json}{"id"} %=> expl3 sequence
\readJsonValueById{\jsonData}{\json}{"data"} %=> id:456
\readJson{\jsonJsonData}{{\jsonData}}
\showJsonValueById{\jsonJsonData}{"id"} %=> 456
\end{document}
天気予報JSONデータを表組する
OpenWeatherMap社から提供される天気予報JSONデータから、都市名、予報の時刻、予想天気、予想気温を取ってきて、LaTeXの表として組みましょう。
各時刻の予報は、"list"
という名前の配列の各要素になっているようです。
この配列に対するmapで、表の各行を整形するという戦略にします。
実はjsonlite
パッケージではJSONの配列をexpl3
のシーケンスとして保持するので、シーケンス用のmapが使えます。
\NewDocumentCommand{\showForecast}{ m }{%
\begin{longtable}{ l | c | r}
日時 & 空模様 & 気温 \\\hline
\endfirsthead
日時 & 空模様 & 気温 \\\hline
\endhead
\seq_map_function:cN #1 \format_forecast:n
\end{longtable}
}
TeX言語のくせにシーケンスとかmapとか、お前はなにを言ってるのだ、という感じかもしれませんが、2016年にもなればそういうものなんです。
そもそもTeXは関数型言語なのだからシーケンスに対するmapくらいできないはずがありません。
あとは、\format_forecast:n
を書いていくだけなんですが、
OpenWeatherMap社のデータで"weather"
がさらに配列になっていたりして無駄にめんどくさいので解説は省略します。
jsonlite
パッケージと同じディレクトリに完全なコードを置いてあるので参考にしてください。
天気記号のサポート数がそこそこあるDejaVuSansを使いたかったので、XeLaTeXで実行してみた結果がこれです。DejaVuSansの☃はどことなく品がいいですね。
ところで、Brzozie(ブジョジェ)という地名がどこなのか気になった人がいるかもしれません。ブジョジェはポーランドの湖水地方で、バホテク湖があるところです。来年のTUG2017は、このバホテク湖で毎年開催されているBachoTeXというイベントと合同で5月に開催されることになっています。なんとか参加するぞ。
そしてこの記事は、第五回となるTeX&LaTeXアドベントカレンダーの24日めの記事です。
昨日はアセトアミノフェンさん(この記事を見てDejaVuSansを使うことを思いつきました)、明日の最終日はZRさんです。