2005/09/25

某所で知った「象られた力」(飛浩隆)を読む。そうとうおもしろい。4本の中編が収められていて、うち1本の「デュオ」以外は未来の宇宙を舞台に展開されるしっかりしたSFである。だから、必然的に設定や小物には趣向が凝らされているし、それに成功している。つまり、オタク的に面白い。その魅力は、現代を舞台にした「デュオ」にも溢れていて、それだけでも満足な一冊だった。もっとも、設定や小物が魅力的なのは、単にアイデアというよりも、その作中での生かし方の巧妙さにあるんだろう。ありきたりかもしれないネタを気持ち良く予想外の方向に引っ張っていってしまうストーリーと描写。
そういう、新しい世界を見せてもらう心地よさに加えて、いずれの作品にも個人的に共感できる視点があり、それも楽しむことができた。巻末の「解説」には「形と力の関係が云々」と書いてあるけれど、むしろ各作品に通底しているのは、力の背景にあるのが「個人」なのか「個人を越えた存在」(「死者」とか「宇宙」)なのか、その決定不能に抗している主人公(たち)を描くことなんじゃないだろうか。問題に対峙する主人公(たち)の解や行動は各作品ごとに異なっていて、その描き分け方が、うまい具合に魅力的なキャラクターづくりに貢献している。そういう意味では、この4本を選んできたのは正解だったと思う(ほかを読んだことはないけど、なんとなく)。
最後に表題作である「象られた力」の重箱をつつきたいわけですが、宇宙全体で活躍する建築家のハバシュの作品は、シジック以外の星系にもあるんじゃないだろうか? だとすると、シジックの歌が本編のような解釈をされることには無理があるような気がするんだけど…… それとも、リットン&ステインズビー協会がうまいことやってるんでしょうか。

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