2008/03/11

Gaucheで本を作るのFAQ

Gaucheで本を作る
http://www.slideshare.net/guest7a66b8/gauche/

gauche.night2008の発表後に個別に受けた質問に答えます。




Q. 原稿をXMLで書かせられるってこと?
A. XMLでなくてもいいんだけど、XMLでお願いすることが多いです。

歯切れの悪い答えですみません。ちょっと背景と理由を説明します。

まずは「XMLでなくてもいい」についてですが、実例がいくつかあるので、それらを紹介。

1つめの実例は、『RailsによるアジャイルWebアプリケーション開発』の旧版。このときは、原書のデータはXMLだったんだけど、下訳の時点でプレーンなテキストデータになってしまったため、XMLの原稿ではありませんでした。ただし、あとでDTPソフトを使ってページレイアウトをするオペレータさん向け、つまり人間向けのメタ情報は付いていました。人間向けのメタ情報っていうのは、たとえば箇条書きの行頭に「●」が付いているとか、サンプルコードの始まりと終わりにマークが付いているとか、補足説明の文はタブでインデントされてるとか、そういうやつです。で、どうしたかというと、そんな人間向けメタ情報をなんとなくパーズしてLaTeXに変換するスクリプトをGaucheで書きました。といっても、機械的な判断が可能なように、人間向けメタ情報のエディタでの編集は必要でした。原稿そのものは最後までプレーンなテキストデータを使いましたが(i.e. XMLに加工したりはしていない)、著者がいじれる原稿からmakeいっぱつで印刷用データを生成していたのは一緒です。このときの顛末は過去にまとめたことがあるので、そちらも見てみてください。

『RailsによるアジャイルWebアプリケーション開発』の制作方式

2つめの実例は『マスタリングTCP/IP ルーティング編』です。このときは、とくに最終工程を意識したメタ情報がないテキストの原稿に、僕のほうでXMLタグを付けて、編集用の原稿にしました。著者の方々の校正では、初校や再校といったタイミングでPDFを印刷した校正紙に赤書きしてもらう、従来の方法をとりました(編集部内ではほぼデイリーでPDFを生成していたけど)。もっとも、この本の場合は図版がとても多く、その校正は紙に赤書きというスタイルがいちばん現実的だったというのもあります。編集者がいじれる原稿からmakeいっぱつで印刷用データを生成していたのは一緒です。

3つめの実例は『プログラミングのための線形代数』です。この本は、著者の2人の原稿がまっとうなLaTeXだったので、そのままLaTeXで組んでしまいました。LaTeXの編集では三美印刷さんにお手伝いしてもらっています。なお一般には、著者独自マクロが入り乱れたLaTeXの原稿はうれしくありません。そのまま印刷所には入稿できないからです。LaTeX原稿は最終工程ではポータビリティが低いのです。

「XMLでお願いすることが多い」理由については、次の質問ともかぶるので、ここではパス。




Q. Wikiとか使って原稿書きたいんだけど……
A. おすすめしません。

いや、Wikiを否定しているのではなく、Wikiは技術書の原稿執筆には向かないと思う、という話です。初期的なアイデア出しや、アイデアの相互レビュー、一時的な原稿のプールなんかに使うぶんには、Wikiは技術書の執筆においてもとても優れたメディアです。

でもWikiに依存して書いていると、最終的な本の構造が意識できない。

技術書って、拾い読みしてもいいけど、やっぱり多くは頭から読むものなわけです。そのとき、構造があいまいな本は、とても読みにくい。ここで「構造」というのは、「目次」に近いけれど、もうちょっと体系的な本の姿のことです。新しい概念がいつ説明されるか、どのブロック(章や項)の下に書かれているか、前にどこで言及されていたか、その前後の文脈。こういった本を構成する要素の縦横のつながり方は、その本のわかりやすさにもろに影響します。構造があいまいで見通しが悪い技術書は、初心者の目線で読んでいるとつらい。Wikiで書く原稿はジグソーパズルすぎて、あらかじめ全体像を知っている人(本を書く人)には気持ちがいいけど、その一片ずつを順番に渡されて読むことになる人(本を読む人)にはちんぷんかんぷんだったりするわけです。Webであれば縦横にはったリンクが読んでいる人にとっても十分な手がかりになるのですが、頭から読む本の場合は読んでいる途中で迷子になった感を抱かせないだけのしっかりした構造が必要です。

で、そういう技術書の原稿を書くのにWikiでやれる人っていうのは、限られるわけです(ゼロじゃないですもちろん)。その点では、構造化を強要されるXMLのほうに、書籍の原稿執筆のための形式としての分があると思います。繰り返しになりますが、アイデア出しやアイデアのまとめにはWikiが優れていると思います。でもそれを本にしようとおもったら、頭から読まれることを強く意識して、体系的に再構築する必要があります。

そして、それは技術書の編集者が手伝える仕事でもありますね(むしろ得意なはず)。


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